殺意は愛情

 血に染まる。乾いた黒と、滴る赤と、混じり合い。

 臭いも、穢れも、どちらにも動じず。ごく当たり前のような振る舞いで武器を収める。

「ユーリぃ」

 濁った色の中で鮮血のような瞳が俺を映し出す。

 近寄って、近寄って、もう少しで手が届く距離で止まる。

「お前じゃなきゃダメだ、ダメなんだよ」

 大袈裟に腕を広げて。

 飛び付くように踏み込み、抱き込まれる。

「ユーリぃ……お前が、お前がいい……」

 寂しいのか物足りないのか。少し細めの物言いで、ギュッとしがみついては、血の臭い漂う体をなすりつける。

「なぁ、なぁ……ユーリ、ユーリ」

「……ザギ」

 血と共に固まった髪に触れ、呼ぶ。

「俺が相手してやるから、もういいだろ。もう、やめとけ」

 何が、とは言わない。

 言わなくてもわかる、そんな期待じゃないし、言いたくないわけでもない。ただ、無意識に伏せていた。

「……」

 腕の力が抜ける。表情から想像出来ないくらい温かい体が、離れる。

 代わりに触れた、唇。幾秒か、どちらも動かずに。

「……っ」

 名残惜しげに離れた唇を、名残惜しげに追い掛けそうになる。

「ユーリぃ……お前はぁ、俺のモンだ」

 唇をペロリと一周舐める。その舌の動きに鼓動が一拍大きく鳴る。

「ザギ」

「あァ?」

「……何でもねぇ」

 言わなければ行ってしまう。だが言う気はない。

「じゃあな」

「あぁ。次に会うのが楽しみだ。なぁ、ユーリぃ!」

 互いに、縛らない。重くて、軽い距離感。

「ヘマして死ぬなよ?」

 笑って背を向け、ザギの気配が消える瞬間を待つ。一呼吸置いた頃には、そこにはもう虚空が佇むだけで。

「……なーにやってんだか」

 寂しくなるな、なんて。アイツに抱く感情じゃねぇっつーの。

「あーあ。変なのに引っかかっちまったよ」

 物好きな自分に失笑。

 触れられた箇所にまだ残る血生臭さにザギを想い、アイツがまた俺を求めに来る日を考えながら……

 暫しの時を、俺は待つことになる────。






2010.1.14