部屋に入ると、エステルがほわ~んとした顔で俺のシーツに顔を埋めていて。
「なーにやってんだ」
「あ、ユーリ?! あの……その……」
声をかけるまで俺が見てる事に気が付かなかったようで、ピクリと肩を跳ねさせ取り乱す姿はまるで小動物。
しばらく赤い顔してあせあせとしていたが、漸く言う覚悟ができたらしく。上目遣いでこちらを見て。
「えっと……ユーリの、においがするので……」
「ニオイ……?」
一瞬、俺ってそんなに臭うのか? と心配になったが、どうやらそういう意味ではないようで。
「わ、私、変です? ユーリのにおいがするとここがドキドキするんです……」
自分の胸に手を当てながら、ここと指し示す。つられて胸の辺りをまじまじと見つめてしまい、ふと気付いて目を反らした。
「それってつまり、俺のニオイが好きだってことか?」
「はい、でも……それはユーリだからで、その、私はユーリが……」
手をぶんぶんっと振り下ろして。さり気なく恥ずかしいことを言っているが、本人は気付いていないらしい。
「ははっ。なら、別に変じゃないだろ?」
そんな嘘偽りのないエステルの仕草と表情に、自然と笑みがこぼれる。
「そう、なんです?」
あまりにも首を傾げるその姿が愛らしいから。
「俺もお前が好きだから……」
傍に寄りしゃがみこんで。
「ユーリ……?」
桃色の柔らかい髪を手で梳きながら、微かに香る髪や肌の甘いにおいを嗅いで。
「ここがドキドキする」
エステルの耳元で告げる。
空いた手でエステルの手を掴み、自分の胸元にあてさせた。
「ひゃっ……」
突然手のひらに俺の肌が触れた驚きでエステルは大きな声をあげて。
「あ……ユーリも、ドキドキしてます」
少ししてからハッとしたようにそう呟く。
「ユーリも私と一緒だったんですね……」
良かった、なんて安堵の溜め息を吐くから。
本当に可愛いやつだな、なんて笑ってみせる。
「あー、だけどなエステル」
「はい?」
「人目につく所ではやるなよ?」
「そ、そんなことしません!」
「そうか? お姫様は世間知らずだからなぁ」
「……ユーリ意地悪です」
他愛ないことが楽しい。
帝国には悪いけど、このままさらっちまいたいくらいに。
「マジでさらっちまうか?」
「何をです?」
「ははっ。何でもねぇよ」
フレンの慌てる姿が目に浮かんでつい吹き出しそうになる。
「ゆ、ユーリ??」
「わりぃ」
あの天然王子は何て言うかな。
「ユーリ顔がにやけてます」
「気のせいだ」
何だかんだ考えるけど。
「ま、今は今で」
とりあえず、ただ傍にいられればそれでいいか。