これは、愛情の裏返し。あんたが好きで。でもあんたが俺のことだけを見てくれないから、酷くする。
傷つけて、俺をあんたに刻み込む。
知ってるか? 心に酷く残った傷は、中々消えないんだぜ?
痛くて、恐くて、脅える。そして恐怖の対象の、俺を気にする。
俺が────刻み込まれる。
だから、傷つけて傷つけて……あんたが、絶対に俺を忘れない様に。
あんたの瞳が、常に、俺だけを捕える様に……。
「ロイド……何のつもりだ……」
きつく。締め付ける。
「見てわかんねぇの? 拘束してんの」
ロイドは近くにあった梱包用のガムテープを、クラトスの、意外にも白く綺麗な裸体にぐるぐると巻き付けた。
「何故、こんな……」
何故。少し考えればわかる事なのに。
「あんたってホントむかつくな……」
「ロイ……」
「刻んでやるよ、あんたの中に俺を、さ」
そのまま、俺しか映らない様に。
「やめっ……」
クラトスの顔が引き釣る。
「俺が、どんだけあんたのこと好きか知ってる?」
きっと、知らない。
「やっ……」
「なぁ。俺は、あんたのコト父親なんて思ったこと、一度もないぜ?」
そして、これからもずっと。
「っ……」
「好きなんだよ。あんたのことが……」
「言うなっ……」
クラトスは聞きたくないと首を振り、髪を振り乱した。
髪が耳を霞める時のほんの小さな雑音で、必死にロイドの言葉をかき消そうとするかのように。
「好き……」
「嫌っ……」
「好き……」
「聞きたくないっ」
「好き……」
お構いなしに、ロイドは繰り返し言い続け、クラトスを苦しめる。
「っ……、な、ぜだ……っ」
クラトスの瞳が、僅かに涙で滲んだ。
「……なぁ、あんたは?」
それでも、ロイドは言葉を止めない。
「っ、お前は、私の息子……」
望んでいない模範解答に、ロイドはただただ苛々した。
言葉は、耳に、頭に、届いているはずなのに。
クラトスの心にまでは、届かない。
「そんなこと聞いてない。あんたは俺のこと好き?」
「……」
「答えろよ! あんたは俺のこと……」
苛立ったその言葉を遮るような、微かな返答。
「好き、だ……」
目を伏せ、震えながら。嘘だってのが、馬鹿でもわかる。
「なぁ……ホントに?」
わかっていて、聞く。わかっていても、期待する。
嘘でもいいから。
同じ気持ちなんだと────夢を、見たくなる。
「……あぁ……本当だ」
しかし、現実は、現実だ。
「だが決して、お前と同じ気持ちではない……っ! これは父親としてであって」
「黙れっ! むかつく……。あんたはちっとも俺を見てない……。俺はもうあんたが知ってる昔の俺じゃない。俺はもうあんたを組みしける程成長したし、あんたを……」
「ロイドいい加減にっ……!」
まるで今のクラトスは息子を叱りつける父親だ。
あんたが俺の父親なんて認めたくないのに。それが現実なんだと思い知らされる。
「父親ずらすんなよっ!」
むかつく。むかつくむかつく。
こんなに好きなのに。こんなにも好きなのに。
俺の気持ちは届かない。伝じない。
「っ、今から、あんたを滅茶苦茶にしてやるよ。嫌がっても泣いても叫んでも、絶対やめてやんねぇから……!」
その瞬間、ロイドの瞳に灼きついたのは。悲しそうに俯いた、父親の顔だった────。
◇◇◇
「気持ち良い?」
心が病んでしまったかのように、今のロイドには、ただクラトスを苦しませること以外、何も考えられなかった。
何度もロイドを呼ぶ声が、現実に引き戻そうとする。それが嫌で、タオルを噛ませて塞いだ口から苦しそうに声が洩れる。
「んぅっ! ぅぅ゛っ、ぅぅん゛っ」
ベッドの上。手を後ろに拘束されて動かすことが出来ないまま、尻を突き出す格好にさせた。
何の準備もしていない秘穴は乾いていたけど、そのまま指を突き挿した。
きつい締め付けと乾ききった内壁のせいで進まない指に、吐き捨てるように唾をかけ、回転を加えながら無理矢理挿し込む。
「んふぅ、ひぅ! ぅぅっ!」
「なぁ、気持ち良い?」
クラトスは首を振り、否定する。
「っ……ホントむかつく」
「んう゛ぅぅっっ!」
奥まで押し込めた指を勢い良く抜き出し、内壁を摩擦する。びくんと跳ねたクラトスの瞳からは涙が飛んだ。
「こんなにひくつかせてんのに……何で気持ち良いって言わないんだよ!」
苛立ちにまかせ足で踏み付けグリグリと秘穴を刺激する。
「ん゛ぅっ! ん゛ぅぅ……」
泣きそうでいて、でも何かを言いた気にもがく口を、仕方なく解放してやる。
「っは、っんな、こと……したく、ない……から」
何で? 聞かなくてもわかるよ。“息子”だからだろ?
「っ……!」
「んひぁぁぁっっっ!」
秘穴を思い切り蹴り付ける。デリケートな部分への強烈な一撃で、クラトスは瞳を見開いた。
「っっ、ひ……っ」
瞳からは仕切りに涙が溢れ、体は大きく痙攣している。
「ぁ……っ、あ゛……ぃい……」
歯を食い縛り、痛みに耐える姿は。
「惨めだな、クラトス」
あんたが、素直に俺のモノにならないから。
「酷……ぃ、っ」
「俺が?」
あんたが、だろ?
……そんな声で鳴いたって、優しくなんてしない。そう決めたんだ。
「……そうだ。あんたに、良いモノやる」
「ふ……、ぇ……?」
床の上、袋の中に。
「これ……、あんたの為に買ってきたんだ」
赤い赤い、小さな。
「ろ、ぃ……ど……?」
クラトスの、嫌いなモノ。
「今からこれ、食わせてやるな」
「っっ、ロイ、ド!? 何を考えているのだっ!」
ナニヲ? おかしなこと、聞くなよ。
「俺は、いつもあんたのことしか考えてねぇよ……」
そう、クラトスのことだけ。
「な? 気持ち良くなりたいだろ?」
「や、めろ……」
だから、これを準備した。
「此処にあるの……全部あんたにやるからさ」
「ィ……やだ……」
絶対に、記憶に残るように。
「小さいからたくさんイけそうだな。何個食べられっかな?」
「やめろ……っ」
クラトスはガタガタ、と音が聞こえそうなくらい震え出す。顔面蒼白になって、震えで歯がカツカツ鳴るのが聞こえた。
「……そんなに嬉しい?」
「違うっ……ロイドっ!」
「じゃあ、一つ目な」
「ひっ、ぃ、や、ぁっ!」
最初は拒むように締まっていたそこも、指でこじ開けながら押し込めば、思いの外あっさりと呑み込んでいく。
「オイシイ?」
「っぁあ……っ」
ロイドの手で感じたくないのか。それともコレで感じたくないのか。クラトスは目をぎゅっと瞑り、必死に堪えている。
「二つ目いくな?」
クラトスの返答なんて関係ない。
「三つ目」
一つ目と同じ要領で。淡々と。
「ぅぐ、あぁぁ……っ」
「四つ目……」
ゆるめの粒は、押し込む力だけで少し汁をもらした。それでもお構いなしに、ロイドは作業を進めていく。
「う、ぁっ、もっ……やめて……っ、くれっ……」
「遠慮するなよ。まだたくさんあるんだからさ?」
入り込んだおぞましいソレが奥に侵攻してくる感覚に、強制的な快感と、吐き気を催す。
その様を見ても、ロイドがクラトスにかける言葉には、狂気しかなかった。
「泣く程嬉しい?」
「ロイっ……!」
何を言われたって、どんなに嫌がったっていい。それだけ、この行為が記憶に残るなら。
ロイドにとって、この行為の意味など、それしかないのだから。
ただ、意識してほしい。
ただ、自分を息子以外の存在として認識してほしい。
そのために、決めたのだ。クラトスが自分をどんな目で見るのかを、想像しながら、用意をしたのだ。
「……っっ」
そんなロイドを怒鳴っても、ただ追い込むだけだった。泣き叫んだところで、意味がない。
何を言っても無駄。クラトスにとって今の最善は、ロイドに従ってやり過ごすことしかない。
「これで……五つ目だっけ」
「っく……」
クラトスはロイドと視線を交わそうとしたが、首を捩り視線を送った先、ロイドは自分を見てはいなかった。
「ロイ、ド……」
「ははっ……、聞いてる? クラトス……」
楽しそうに聞こえるセリフと裏腹に、まるで自分が傷ついたような顔をしていて────
それを見て、クラトスは確信する。
……そうか。狂っているんじゃない。
私が、狂わせてしまったのだと。
「……すま、ない」
聞こえないであろう言葉を呟き、それをかき消すように拙い深呼吸をし、クラトスは出来る限り、強張る体から力を抜いた。
さっきまで青ざめて、泣いて、震えていたのに。クラトスの体から突然力が抜けていく違和感。
「……?」
「……好きに、するといい……」
続く言葉には震えが混じっている。
あれほど嫌がってたのにと疑問符が浮かんだが、考えようとすると、靄がかかったように思考が止まる。
そんなことどうだっていいはずだ。自分にとってこれは、そういう行為だ。
「……ふぅん。やっと、その気になったんだ……」
隠せない震え。怯え。拭えない涙の跡と、苦しそうな表情。そのどれが見えても、何も、思わない。
これは、そういう、行為だ。
言い聞かせるようにして、ロイドは再び、赤い実を手に取った────。
◇◇◇
「まだイケる?」
死んだような笑みを浮かべながら、赤い実をまた一つ掴んでみせる。
クラトスは相変わらず苦しそうに首を捻り、潤む瞳でロイドを見ていた。
「もっ……むり、だっ……」
「いくつ入れたっけ? もう十個いったっけ?」
笑っている。けれど楽しくなんかない。
むしろ虚しいだけのこの行為を、まるで楽しんでいるかのように言えば、クラトスは化け物でも見るような怯えた表情でロイドを見た。
「ロイ……ド」
“やめろ”と言いたそうに口を開いては、もう何度も何度も、声を飲み込んで。その都度悔しそうに唇を噛みしめ、血が滲んでいた。
意識して力を抜こうとしているが、結局最後まで震えは止まらず、奥まで刺激されているにも関わらず、自身は萎えたまま。
怒りも嘆きも諭しも、何を言ってもただ煽るだけの今。視線だけが、何度も何度も訴えてきた。
それが、いくつ目のことだったのかなんてもうわからない。
「……じゃあ、もうオシマイな」
「えっ……?」
目が合った。何度か。交わる視線の先、クラトスは、ロイドが望んでやったことなのに。勝手にやったことなのに。「私のせいですまない」と言わんばかりに、軽蔑するでもなくずっと、申し訳なさそうな色をその瞳に滲ませて。
袋の中には、まだいくつも粒が残っていた。全部使いきるとかそんなことまで考えてなかったけれど、やめるつもりもなかった。泣いても叫んでも、血が出たって続けてやる。そのつもりだった。
「ロイ、ド……?」
「…………」
「何、故……」
でも、何故か手が止まってしまった。
何故か、ではない。ロイド自身わかっている。
「何が」
「何故、やめたのだ……」
まるでおもちゃに飽きた猫のように。はたまた電池の切れた機械のように。突然呆気なく止まった行為に、それを望んでいたとはいえ安堵より先にクラトスからは疑問の言葉が口を出た。
あれだけ拒んでも訴えても止まらなかった行為。何が、そうさせたのかと。
「なんであんたが……」
なんであんたがそんなこと、聞くんだよ。
「あんた、ホント何も解ってないのな」
俺、あんたのこと好きなんだぜ?
その言葉は、声に、ならなかった。自潮気味に笑ったら、頬に冷たさを感じた。
「ロイ……ド」
好きで好きでしょうがない。だが、結ばれない。この関係を壊したくなくて。
でも、望むのはこんな関係じゃなくて。見て欲しくて。刻み込みたくて。
酷い、フリをした。
「あんたを苦しめて……それであんたが俺のモノになれば良いと思った」
どこかで自制がきかなくなった。いつからそんなことを思うようになったのか、もう忘れた。
「でも……好きなヤツ苦しめたって……ツラいだけだな……」
泣きたいのは俺じゃないはずなのに。涙と一緒に堰を切ったように、ぽろぽろ言葉が紡がれた。こんな簡単なことにすら気づけなかった。
「これじゃあ、俺、子供扱いされて当然だよな……」
「ロイド……」
泣きながら微笑む、自分の知らない、息子の姿。
大きくなったな、なんて感想は他人の子供だから言えることだ。そうだ、知らない。
「私は、知らない……」
「……え?」
「私には、こんな息子はいない、知らない……」
されるがままの体制だったクラトスは、起き上がり体を回転させる。軋む体に、軋むベッド。それでもロイドに体を寄せ、軽く口付けた。
「……クラ、トス?」
触れるだけのキス。目の前には頬を染めたクラトス。それこそ、何故、だろ。
「嫌、なんじゃ……」
理解が追いつかない。微かにしか触れていないのに、鮮明に感覚の残る唇に指を這わせる。
「馬鹿だな……私も。お前も」
俯いて、苦笑して。
「息子だと、思い込もうとしていただけなのかも、しれないな」
まだ止まらぬ震えを抑え込み、クラトスは言葉を紡ぐ。
「息子だからと、決めつけていただけなのかも、しれないな……」
私は父でいなければと。今度こそ、ロイドの父親であらなければと。
だが、知らなかった。息子と呼ぶには、余りにも、知らな過ぎた。
「父親ずらするな、と。その通りだな」
今更、どの面下げて父親を名乗れよう。事実、そうなのだとしても。
(だから、ロイドは私を────)
クラトスはロイドの胸元に寄りかかる。
未熟だが、逞しい。一方的に守ってあげる存在ではないと、わかっていたのに。
「クラトス、俺っ……」
「愛しているのかどうかはまだ言い切れないが、お前と触れ合うことは、嫌ではないな」
遅れて質問に返答する。一際跳ねる鼓動と、息を飲む音が聞こえる。
「辛い思いをさせて、すまなかった……」
拘束されているため抱き締めることは出来ないが、クラトスはそうするかのように寄り添った。
ロイドから鳴る速くて煩い鼓動を聞いているうちに、クラトスの体の震えはいつの間にかおさまっていた。
「クラ、トス……」
恐る恐る、寄り添ってきたクラトスの体を、初めて抱きしめた。
クラトスの体温って、こんなに温かいんだっけ?
俺、さっきまで、何してたんだっけ?
抱えた体の熱に、次々と感情が沸き渦巻いた。涙が込み上げてきて、流れた雫がロイドの顔をぐしゃぐしゃにしていく。
「っっ!! ごめっ……クラトス……俺、好きなんだ……」
息子じゃなく、一人の男として。
「……俺を見て欲しいんだ……」
◇◇◇
腕の拘束を外した。
痛々しい音と跡に気持ちが竦んだが、クラトスから腕を回してくれた。そっと抱き返して、再び熱を確かめるように抱き締めあう。
どちらともなく口付け、どちらともなく離れる。向かい合うまま重なり合うように倒すと、クラトスの体がびくりと震えた。
強く押し倒し過ぎたかと不安になったが、クラトスの潤んだ瞳を見て気が付いた。
「ロイっ、ド……中のっ……」
恥ずかしいことに、嬉しさのあまり、先程の行為が頭から飛んでいた。クラトスの後孔には、クラトスの嫌いなアレが、まだ入ったままだったのだ。
「わ、悪い! 今出してやるから!」
「は、ァ……っ」
震えが止まったことには気が付いた。でも時折もどかしそうに動いていたのはこのせいか。
「クラトス……」
耳許で囁いて、ついでに耳たぶを甘噛みすると切なげな声が聞こえた。さっきまでの苦しそうな呻きとは違う、少し甘い声。
潰れた汁が垂れてきて、指を挿れるとぐちゅ、と音が鳴る。力んで降りてきていた一番手前の実を、侵入した指で掻き出す。
それは自らの汁なのか、それともクラトスのものなのか、ぐちゃぐちゃに濡れた果実。取り出せば、後孔がパクパクと収縮して、刺激にクラトスの腰が浮く。
「すっげ……」
一つ、二つと、次々と実を取りだしながらつい感嘆の声が洩れる。入れるときは無心だった。
それが、こんなにエッチな感じになるんだな、と。何だか勿体ないことをした気分になって、慌てて首を振った。
「や、ぁっ……も、だめ……ロイドっ」
まだ出しきれてないうちに、クラトスが俺の腕を掴み、止める。
「取らなきゃツラいだろ?」
お前がしておいて、と言われそうだが、諭すように言う。しかしクラトスは手を離す様子はない。
「クラトス?」
ふと気づく、俺にしがみついているクラトスの、腹部。先が当たって、勃っているということに。
望まぬ行為のせいでずっと萎えていたから、頭になかった。
「っも、いき、たい……っ……」
「う、っそだろ……クラトス……」
切羽詰まった顔と声で言うから。ぷちっと、俺の頭で何かが切れた音がした。
「なぁ、俺で、いい?」
ダメって言われたらどうしようか。思いながらも前を寛げ、自身を露にした。視界にそれが映って、びくりと体を震わせたけど、クラトスが二度頷いたのをロイドは見逃さなかった。
そしてまだ全てを出し切れていないそこに己をあてがい、剛ったそれを押し込んだ。
「はっ、ァァァァっ」
ロイドの剛りを飲み込んで、苦痛なのか快感なのか、クラトスからどちらとも言えない声があがる。小粒の実とは比べ物にならない質量。熱。無理矢理にこじ開けられ、尻が裂けそうな感覚。
「っは、すっげぇ……カワイイ」
指も実も、どちらを入れた時とも違う。眉をしかめつつも、蕩けた顔と喘ぎ。こんなにきついのか、って思うくらいに締め付けられて。それでも奥に奥に進んでいけば、残った果実に当たる感覚がした。
「ひ! ぁ、ぁっ、ぁっ、あっ!」
内壁を擦る刺激に加え、突いた実が奥を突く感覚が更なる刺激となり、クラトスは引っ切りなしに喘いだ。
「もっ、……ロイドっ、っ、ひ、……ぐっ」
「っ、あぁ。今、イかせてやる」
息は上気して、心臓が爆発しそうに脈を打つ。こんな夢のような状況で、こんなに気持ちよくて、俺だって、もう限界だ。
中の実が圧で潰れようが考える余裕はなかった。昇り詰めるようにがむしゃらにスパートをかけ、激しく深く、クラトスの中を突いた。
「ぁぁぁっ! うぁっ、ぁっ、ァぅっ、あぁぁっ!」
喘ぎとともに聞こえる水音。中でいくつか実が弾け、水気を増している。ぐじゅぐじゅ鳴る音に合わせて、ロイドの雄が行き来を繰り返す。
何度も何度も突き上げられ、しがみつく手に力がこもり、爪を立ててしまう。ギリギリと引っ掻くように食い込んだ爪を気にする様子もなく、ロイドは動いた。
「ろぃ、ど、ぉっ! ぃ、ああぁぁァァ、っっっ!!」
いくつ目かわからない、実の弾ける感覚と同時に。ぎゅっと締め付け、クラトスは果てた。
「くっ……!!」
その後を追うように、ロイドもクラトスの中で精を放つ。
「っは……っはぁ、っはぁ……」
長距離でも走り終えたかのように汗が噴き出した。
「クラ、トス……」
名前を呼ぶ声が、酷く情けなかったような気がした。
「ろ、いど……」
返ってきた声も、掠れていて頼りない。
「クラ……トス……」
抜き去った後の穴からは、ロイドの精液と、赤い実の混じった液体が溢れ出す。その感覚に身震いしながら、クラトスは軽く微笑み、そのまま瞼を閉じた。
ロイドも荒い呼吸が落ち着くと同時に、クラトスに体を預けるように、眠りに落ちたのだった……────。
◇◇◇
「ほんっとにごめん!!!」
「顔をあげろロイド」
ベッドでツラそうに半身を起こすクラトスの下。つまり、ベッド下の床にロイドは土下座をしている。
「だって俺の所為で……」
クラトスの腕にはガムテープを剥がした後が痛々しく残っている。更には投げ出された実と、クラトスから溢れ出す、そうであったものの残骸。
我に返った今、それが酷くツラかった。
「ロイド」
酷いことしてごめんとか、ツラいよな悪かったとか。クラトスが目覚めてから、何度も何度も謝った。気持ちよかったことなんて、目が覚めた時に消し飛んだ。
今度はロイドが顔面蒼白。罪悪感ばかりが押し寄せてきて、謝罪以外の言葉が出てこない。
「もう謝るな」
いくら最後は合意のうえだったとはいえ、あれだけのことをしたんだ。何度謝ったって足りない。クラトスがいいと言おうが、簡単にこの罪悪感はなくならない。
「だって! 俺あんなこと……」
好きで、好きで、限界だったんだ。きっかけがなんだったのかなんて、今となってはわからない。だけど、あんな……なんて、性懲りもなく謝ろうとしたが。
予想もしていない言葉が聞こえて、全部、消し飛んだ。
「好き、だ」
「だからっ……え? は……クラトス今、何て……」
がばっと顔をあげてクラトスをまじまじと見る。聞き間違いにしては、都合が良すぎる言葉だった。
だがクラトスは顔を真っ赤にしてすねたように再び。
「だから……好きだと言っている」
何度も言わせるなと、先程より落ちたトーンで。でも、夢のようなセリフを。
「え、え?! でも、だって、なんで……」
欲しかったはずの言葉なのに。理解が出来ずに、単語だけがぐるぐるとロイドの脳内を舞う。
「触れたら、お前の全部が、流れ込んできた。理屈などなしに、愛おしいと感じた。……それでは、不満か?」
息子として、ではない。息子と呼ぶには、あまりにもロイドという存在を知りすぎていて、そして知らなすぎていた。
事実、ロイドはクラトスの息子だ。だが……
「息子としてではなく、だ」
「~っ!!! クラトスっ!」
消えない罪悪感。しかしそれを上回る感動に、思わず夢中でベッドに乗り込みクラトスを押し倒す。
「ろっ! ロイドっ」
腰の痛みと違和感に、押し返すことも出来ずに成すがままに押し倒される。恥ずかしさの余り顔を背けるクラトスに覆い被さり、ロイドはひたすらクラトスの名を呼んだ。
「クラトス、クラトスクラトスクラトスっ」
益々恥ずかしくて目を瞑るクラトスに、精一杯優しく、口付けて。
「んっ……」
たった一瞬の口づけ。ほぼ同時に、クラトスの頬に温かい雫が落ちた。
「クラトスっ……俺、今すっげー幸せ」
泣きながらも笑ってみせる、幼くも逞しい姿に、愛おしさが込み上げる。
「私も、だ」
微笑んで抱き締めれば、強い力で抱き返された。
────ずっと、息子としてではなく、1人の男として見て欲しかった。
何をしたって到底敵わない、偉大すぎる父という背中。それに憧れつつも、実感すればするほどにそれがとても苦しくて。
どんな形であれ、息子の枠から外れられるのなら。どんな手段を用いても……そう、思っていた。それほどに特別で、愛おしい存在────。
鼻を啜る音を響かせながら、幾度も嗚咽混じりにクラトスの名を呼び、ロイドはクラトスが腕の中にいることを噛み締めるのだった────