夜桜にはきっと、何かの魔法がかかってる────
「クラトス! 花見行こうぜ!」
時刻は既に深夜を回った頃。はしゃぐ子供のノリで、宿の同室者兼恋仲のロイドは、突然クラトスへと花見の誘いを持ちかけた。
「花見? こんな時間に、か……?」
クラトスは怪訝な顔をして問いかけた。花見というのは陽に照らされた鮮やかなる花々を楽しむものであり、それをこんな夜更けに出向いて何をしようというのだ。ロイドの口をついて出た突拍子もない提案に、クラトスは少しばかり呆れてしまう。
「こんな時間だからこそ、だろ?」
が、当のロイドは意に介さず。
だからこそ、とは一体どういう意味なのだろうか。やはりロイドの言う事が理解出来ずに、クラトスは怪訝な表情を続けている。
「つーかさ、俺はクラトスと二人きりで花見がしたいんだよ。そしたら夜しかないだろ」
「……!」
ロイドは人差し指で頬を掻きながら、僅かに羞恥を覗かせた。最後まで聞けばなるほど、そういうことかと思う。確かに陽が出ているうちに出向けば、少なくとも必ず人がいるだろう。二人だけでとなれば、穴場を探すか、人の居ない時間を狙うしかない。その後者というわけだ。
「だがやはり今からは」
「夜だって花見は花見だって! ……それとも、俺と二人きりじゃ嫌か?」
否定気味のクラトスを、上目使いで、それも寂しそうにロイドは見つめる。クラトスは、はぁ、と溜息をひとつ吐いた。
いつもこうされると、親バカなのか、ただの惚れた弱みなのか。
「……わかった。行こう」
「~っ、よっしゃ!!」
断れないのだ。きっと、わかってやっているのだろうが────。
*
「すごい、な……」
「あぁ……綺麗だ」
見渡す限り、一面花盛り。有り得ないと否定したものの、クラトスは思わず感嘆の声を上げた。ロイドも口を開けたまま、此処へ来てから只々桜に見入っている。
満月が近いのだろう。少し欠けた月と、僅かに光る街の灯りが、桜を青白く照らしていた。
静謐な夜。柔らかい桜色の花弁が、月の輝きを糧に咲き誇るようで。可憐でいて妖艶。辺りを埋め尽くす無数の澄んだ花弁に、此処であって、此処ではない何処かに迷い込んだ様な錯覚に陥る。
「ココ、座ろうぜ」
ロイドに指さされた方、一本の桜の木の下に二人は腰かけた。落ちた花弁が散りばめられ桜色の絨毯が出来ている。柔らかい草と花弁のおかげで、地面の固い感触は此処にはなかった。二人は木に寄りかかり、花見を続ける。零れた桜がひらひらと、月灯りの下に舞う。
「ロイド……ありがとう」
「え?」
ふいに、クラトスが礼を口にするのを聞き、ロイドは大きく目を見開いた。
「俺、何かした?」
ロイドは思い当たる事など何も無いというのに、と不思議そうな視線をクラトスへと送る。
「お前が誘ってくれなければ、こんな綺麗な景色を見ることはなかっただろう?」
桜の美しさは、陽の光の下でのみ発揮されるものと思い込んでいた。月に照らされた桜の花弁が、こんなにも幻想的な風景を作り出すなど、クラトスは想像もしていなかったのだ。これほど長く生きていても知らぬ事は多く、それをこのロイドという男がいつも気付かせてくれる。
「だから、だ」
ふっ、と感謝の意を込め微笑んだ。
「そっか、良かった。……そんじゃあ俺も。ありがとな、クラトス」
「っっ……!」
少し照れたように、月灯りを浴びてはにかむロイドは何だかいつも以上に大人びて見えた。妖艶な景色を映し出す眼差しを真っ直ぐ見つめる事が出来ずに、クラトスは桜へと視線を逸らした。
「何故、だ……?」
今度はこちらから問えばロイドはその笑みのまま答えた。
「あんたが、俺に付き合ってくれたから」
「このくらい……たいしたことではないだろう?」
問の答えが余りにも普通過ぎて、クラトスは思ったままを声に乗せると、ロイドは不満そうに眉を寄せた。
「あんたにとってはそうかもしんねーけどさ。……俺にとってはすっげー大事なことなんだぜ?」
「す、すまない……」
空気を読む事が苦手な自分の放つ何気ない一言が、ロイドの機嫌を損ねる事がある。今もまた、余計な事を言ってしまったなと、心の中で反省をしつつ、気まずくなりかけた空気に戸惑った。
「なあ」
何か言わねばならないと思考を始めた途端、ロイドが呼びかけてきた。
「……キス、していいか?」
クラトスの戸惑いをよそに、ロイドは尋ねる。
クラトスはロイドを見て、地面を見て、桜を見て、月を見て、そしてまたロイドを見て。顔を桜色に染めた。
「いい……ぞ」
返す言葉は、それしか見つからなかった。
胸の鼓動が速くなる。ロイドの顔を見られなくて、クラトスは目を瞑った。
かさり、と体重をこちらに移動させ、地面の花弁が音を鳴らす。ロイドの顔が近づいて温かい呼気を感じる。
鼻先が、触れる。
続いて、唇が重なった。
「……っ」
クラトスの柔らかな唇がロイドの唇を受け止める。触れるだけの優しい口付け。互いの唇の感触を確かめあって、離れる。
そっと目を開けば、自分と良く似た色の瞳が自分を映している。恥ずかしくなりもう一度瞼を閉じると、再び唇が塞がれた。僅かな隙間から舌が入り込んで、クラトスの口内を舐めとる。
「んふっ、ぅ……」
歯列をなぞり、舌を絡めとる。飲み込めなくて溢れた唾液が開かれた口の端を伝って落ちる。
「っむ、ん、ぅ、っふぅ……は、ぁ」
余すところなく舌を辿らせ、漸く満足したのか唇が離れる。二人の唇を繋ぐ透明な糸が、月灯りにキラキラと輝く。解放された口が、大きく酸素を吸い込んだ。
「っは……。クラトス、やばい……。俺、我慢できない、かも」
風が髪を撫で、桜の花弁が吹雪く。視界を薄桃へと染めていく中、手の甲で唇を覆い、目を逸らしながら頬を染めるロイドがやけに艶めいて見え、心臓が高鳴る。ロイドも同じなのか、逆の手で心臓の辺りをギュッと抑えていた。
口付けしかしていない。それなのに、なんだかやけに、興奮している。
顔が、体が、熱い。
「……なあ。クラトス…………したい」
「っ此処では……駄目、だ」
ロイド同様に赤く染まる顔を逸らし、口の端から溢れた唾液を拭いつつ、無意識に唇をひと撫でする。
「いいだろ!? 俺……」
するなと禁じたわけではない。宿まで戻ればいい。それだけのことだった。だが、ロイドはそれすらも待てない様子で。
「ロイド……私達は花見に来たのだぞ」
「そう、だけど……。桜よりあんたの方が綺麗過ぎて……。もう花見どころじゃねぇよ……」
「っっ」
クラトスの顔に、ボッと火が灯る。我が息子ながら、なんという殺し文句を吐くのだろう。騒ぎ出した心臓が静かな夜に煩く木霊した。
「しかし……」
クラトスは言葉に詰まる。
ここが外だから。当然それもある。だが何故だろう。ロイドが抑えられないように、クラトスもまた昂る気持ちが抑えられずにいた。腹の底がムラムラとするような。今、致してしまったら、歯止めがきかなくなりそうな、危険な予感さえする程に。
そんなおぼろげな理由を述べる暇もなく、「そんなに、俺とすんの嫌?」と、悲しそうな顔をされてしまったものだから。クラトスは呆気なく折れて、抑えようとしていた本音を告げてしまう。
「……私も、お前に、触れたい……」
伸ばした手を、ロイドの頬に添えた。手の甲にロイドの温かい手が重なる。
「ありがとな……クラトス」
額に口付けられ、ちゅと控え目な音が鳴る。擽ったそうに微笑むと、返事の代わりに、クラトスも同じようにロイドの開けた額へと優しく口付けた────。
*
足の間に割り込んだロイドに、するりと、器用な手付きで服を脱がされていく。ダイク殿讓りの器用さで、簡単に腰のベルトが外され、続いて服の前が寛げられる。
あっという間にクラトスの上半身は月灯りの下に晒された。青白い光が満開の桜を透かし、ほのかな桃色がクラトスの体を妖しく照らす。ゴクリとロイドが喉を鳴らすのが聞こえた。
「綺麗だな……」
「……言う、な」
桜よりも鮮やかに頬を染め、クラトスはふいっと目線を逸らす。ロイドは開かれたクラトスの胸元に手を伸ばし、優しく触れた。濃く色付いた胸の飾りに指を運び、滑らせる。
「っふ……」
「もう硬くなってる……」
今触れたばかりだというのに、クラトスのそれはコリコリと音がするくらいに硬くなっていて。指の腹を当てながら、ロイドはふと呟いた。
「なぁ…………あんた、もしかして興奮してる?」
「!?」
屈んだロイドが下から顔を覗いてきて、思わず目が合った。じっと見つめられ、全てを見透かされた気分になる。
「俺さ、桜見てからなんかすっげー興奮してんだよな……。だから、あんたもかなって思ったんだけど」
「ロイドも……なのか?」
「やっぱりクラトスも?」
抑えのきかない様子から、そんな気はしていたが、やはりロイドも自分と同じ様に、ここに来てから異変を感じていたらしい。二人は顔を見合わせる。クラトスは、可能性として思い付く事を口にした。
「もしかすると……夜桜には魔力が宿っているのかもしれんな」
「まりょく? じゃあ俺達は桜の魔法にかかったのか?」
「そういうことになるな」
何かの文献で目にした事があった、植物や、月が宿す魔力の話。それはまるで、ロマンチストが語る、夢の様な話だった。桜が魔法をかけた、なんて。
だが、今は二人とも無性に餓えていて。鼓動が早鐘のように鳴り響き、血液が沸騰しそうに熱い。これを説明する術が、それしか思いつかないのだ。
「こっちも硬くなってるな」
「っあっ……!」
考えている間に、下半身で主張する自身に服越しに触れられ、ピクリとクラトスの体が跳ねた。下着ごとズボンを捲り、衣服という楔から解放すれば、ぶるりと頭をもたげたそれが露にされた。慌てて隠そうと動かした手を捕まれ、指先に口付けられる。
「ひっ、あ……」
やんわりと、手を避けられて、ロイドの視線が蜜を滴らせたそこへと注がれる。太腿の付け根に手を置き屈むと、ロイドの口が、クラトスの雄の象徴へと……。
「っま、ロイド……っ!」
ちゅる、と先端から滴る蜜を軽く吸われると、クラトスのそこは震えながら、とろとろとまた新たな蜜を生み出し、竿を伝い落ちる。その蜜を下から丁寧に舐め取られ、クラトスは早くも果て、ロイドの顔を汚した。
「ひ、〜〜ぅっっ……!!」
いくら魔法のせいだとしても、あまりにも呆気なく果てて、クラトスは動揺した。
「っすまない……!」
やってしまった、と慌てて己の精液を拭いさろうとするが、それよりも速くロイドの指がそれを掬い取り、あろうことか口へと運び、真っ赤な舌で舐めとって見せた。
「っぁ……」
「な、よかった?」
こくりとひとつ頷いて、ロイドの問いに肯定した。
こんな事をしているというのに、いつもと変わらぬ優しい笑顔を向けるロイドに、自分だけがどうにかなってしまったみたいで羞恥が増す。
だが、とクラトスはふと思う。どうせ恥ずかしいのならば、ロイドにも気持ち良くなってもらいたい――。普段は思ったところで何もせず、ただ委ねるだけなのに。気が触れているなと自嘲しつつも、全てを夜桜のせいにして……クラトスは羞恥心を飲み込み、乱れた呼吸を整えて、ロイドの名を呼ぶ。
「ロイド」
「ん?」
「私も……お前のが、したい……」
「へっ!? え、クラトス!?」
ロイドはクラトスの申し出に、マジかよ、と目を丸くして驚く。
そんなこと、いつもはロイドが頼みに頼んだ時しかしないのだ。それを、クラトスが自ら志願するなど、ロイドにとっては夢のような話であったし、当然クラトスにとってもまさかそんな事を口にする日が来ようとは思ってもみなかった事なのだ。
夜桜は、人をこんなにも狂わせてしまうのか。
ロイドの返事を待つ数秒が、やけに長く感じた。淫らな男と思われただろうか。失望されてはいないだろうか。夜桜のせいならば……許されるだろうか。
「してくれよ」
返されたロイドの一言が、クラトスの思考を吹き飛ばす。
前を寛げ、露にする。目の前に現れる、若さを象徴するように天を仰ぐロイドの雄に息を呑む。
クラトスは屈んで、ロイドの足の間に顔を割り込ませる。鼻をつく雄の匂いに、腹の底がきゅんと疼いた。口を近づけ、遠慮がちにしゃぶりつく。
「ん……ふぅ、んぅ……」
上下させる度に、舌に擦れる熱で、クラトスはロイド以上に息を荒くする。
口から溢れる唾液とロイドの先汁で顎を汚し、それでも必死に奥まで咥え込もうとするクラトスの姿に、ロイドは更に大きく自身を昂らせた。
「っん、ぅ、んむぅ」
上顎を掠める先端に。舌の上を滑る脈打つ血管に。口内への刺激だけで、クラトスの性器は再び上を向き始めていた。もどかしそうに腰を揺らしている事に気付いたロイドは、手を伸ばしそっと中心に触れてやる。
「ふぅんっ!? や、ロイ……」
「ダメだろクラトス。口、離さないでくれよ」
奉仕に集中していたせいで、柔く握られただけで腰が過剰に跳ねた。思わずロイドから口を離すと、荒く息を吐きながら優しく咎められてしまう。
「っ……ふぅっ……んんっっ」
声と、下半身への直接の刺激のせいで喘ぎが漏れそうになるのを必死に堪え、クラトスはどうにか口の中にロイドを納め、舌を動かす。
「んふ、ぅ……ふ、んぅ」
鼻から抜ける甘い息遣いと、目の前で自分を咥えながらいやらしく腰を揺らすクラトスに、ロイドも吐精を促され、腹の底が熱くなるのを感じる。
「やべっ、出るっ……!」
一言そう漏らすと、ロイドはクラトスの口内に自分の欲望を弾けさせた。
「ぅんんっ!」
喉の奥へと吐き出されたそれを、反射的にゴクリと腹へと下す。飲み込めきれなかった精液が、口の端から零れた。
「ろ、いど……」
ロイドは脈打つ自身を抜き去る。上目遣いで頬を染めるクラトスに、早々に、出したばかりの自身が再び熱を持つのを感じた。顎に手を添え、ロイドはクラトスの濡れた薄い唇に口付けた。
「今度は俺がよくしてやるから、な」
クラトスは背筋がぞくぞくするのを感じながら、言われるでもなく大木で背中を支えるように体勢を変え、ロイドに秘部を見せつける様に無言のまま自ら足を開く。
勃ち上がった性器から伝う蜜が蕾にまで届いて、濡れた入り口が淫猥にロイドを誘う。誘われるがままにロイドが指を挿入しようとすると、クラトスは首を横に振った。
「クラトス?」
「ロイドが……欲しい……」
ロイドは目が点になり、一瞬思考が停止する。
「クラ、トス……あんた……っ!」
生唾を飲み込みながら、ロイドは確信した。桜の魔法ってすげえ。でなきゃ、理性的なクラトスが、こんなにも積極的になるなんてこと有り得ない。
「後で文句言っても知らないからな」
ロイドはクラトスの引き締まった太腿を掴み、猛る自身の先端を、蕾へと宛う。
「んっ」
先端との口付けに、キュッと締まって反応を示す。
「……入れるからな?」
クラトスが頷いたのを確認して、ロイドは自身をゆっくりと押していく。開いていく蕾に亀頭がぐぽっと飲み込まれ、熱い腸壁に包まれる。
「……っ」
「ぅあっ、あ……っっ!」
初めてではないとはいえ、慣らさずに押し込んだせいかクラトスの顔が苦痛に歪む。
「いたい、か?」
「へ、き……だ、っから、……ご……いて……くれ」
腰を止めれば首を振り、必死に求めてくるクラトスの顔には、苦痛以上に快楽を求める劣情が見て取れた。ロイドは要求に応じて腰を動かし、浅くピストンを繰り返す。
「う、あっ、……ろい、どっ」
甘い嬌声がクラトスの喉から溢れ出る。低く掠れるその声を聞く度に、ロイドの背筋が背徳感に震える。
「ロイドっ……きもち、いい……っ」
「俺もっ、クラトスん中、気持ちいいぜ」
浅いところから、引いて押す度に少しづつ、少しづつ奥へと。
「んあぁっ! そ、こ……っ」
その過程で丁度一番感じる場所を突かれ、クラトスの腰が浮く。狙ったように今度はそこをトンと突く度に内壁はぎゅうぎゅうと絞まり、同時にロイドにも快感をもたらした。
「あっ、〜〜っっ♡」
前立腺を掠めながら、奥へ、奥へ。目を白黒させ、声にならない声を上げながら乱れるクラトスを、容赦なくロイドが追い詰めていく。
クラトスは両の手で隠すように顔を覆うも、涎まみれのだらしない唇が丸見えで、美味しそうに滴るその唇をロイドは己の唇で塞いだ。無意識にか乞うように差し出された舌を、ぴちゃぴちゃと水音を立てながら絡め取っていく。
「んっ、む……ふぅ」
腰を止める事無く、むしろ段々と速くなる抽挿に体を震わせながら、クラトスは顔を隠していた手をロイドの首へと回す。縋るというよりも、もっとと強請るような。現に、ロイドが塞いだ筈の唇を、クラトスの方が無我夢中で貪っている。
二人は幾度も舌を絡め合う。じゅる、と鳴る唾液の音でキスの終わりを告げ、顎を伝う雫を舐め取りながら、ロイドは下へと唇をなぞらせる。クラトスの隆起する喉仏を甘噛みし、下へ。鎖骨の中心に口付けて、更に下へ。
「ふ、ぁ……ぁぁっ」
普段からは想像もつかない頼りない声を上げながら、クラトスの体はぶるぶると小刻みに震えた。ロイドは更に下へと進み、綺麗な肌に盛り上がる胸の筋肉。そこに実る赤い果実を一粒口へと含んだ。
「っっ! あっ、ろ、イドぉ」
味わうように舌で転がし、ちゅくちゅくと赤子のように吸う。
「ひっ! ぃ、んひっ、あっ、あっ」
クラトスは腰をびくびくと跳ねさせ、合わせて尻穴を貫くロイドをきつく締め付けた。締め付けに応じてぐんとロイドの雄は質量を増す。
「っは、きっつ……」
ちゅぽっと音を立てて唇を離すと、果実はぷっくりと腫れあがり一層赤みがさした。
「はっぁぁ……ろい、どっ」
「クラトス……やらしー」
ロイドが動きを緩めても、クラトスの腰が足りない快感を補うように揺れる。
「っ、ぃ、ど……も、ダメ……だ……っ」
「ああ……一緒に、イこう?」
優しく囁くロイドの声はいつもより低く、腰に響く。クラトスは爪先から頭の天辺にかけてぶるりと体を震わせ、皮膚には鳥肌を立てている。
クラトスの首が縦に振られたのを合図に、ロイドは激しく腰を動かし、腸壁を擦り上げる。きつい壁を押し退け先端がぶつかるところまで押し込んで、絡みついた内壁ごと引き摺り出すようにずるずると引く。
「んあっ、あっ、ア、っっ、なか、っ、おく、までっっあ゙あ゙」
「あんたのなかっ、熱すぎて溶けそうだ……」
誰も居ないかどうか確認などしていない。こんなにはしたなく大声で喘いで、誰かに聞かれていたら、見られていたらという懸念すら、今のクラトスには興奮材料のひとつにすぎなかった。
冷静さなど最早欠片もない。クラトスですらそうなのだ。クラトスの視界に映るロイドは、フーッフーッと荒い呼吸で何度も何度も繰り返し腰を叩きつける。まるで夜桜に……クラトスに魅入られた、貪欲に快楽を貪るだけの獣のよう。
「ろ、……っも、ひ……ぐ」
「出すぞ、クラトス……ッッ!」
「ひっ……〜〜〜っっっ!!!」
ぎゅうとロイドの首に爪を立て、クラトスは精を放ち、飛沫が胸元までを汚した。直後にロイドも、クラトスの体内に精を放出する。熱い液体が、腹に染みる。
熱を吐き出してもロイドのそれはおさまる気配がなく。むしろもっともっとと昂っては脈打ち血液を滾らせて。
「クラトス……まだ、いいよな?」
放心しかけの蕩けた顔を浮かべるクラトスは、返事の代わりにロイドの顔を引き寄せ、口付ける。
その後も幾度も行為は続いて……────。
「……もう……これ以上は無理……だ」
「俺もダメだあ〜……もう空っぽな気がする……」
あれから、同じ体位で、桜の木支えに体制を変えて。何度吐精し、されただろうか。腹に受け止めたロイドの精が、中で波打つような感覚。留めておけずに逆流して、クラトスの太腿をてらてらと艶めかしく濡らした。
まだ明けやらぬ仄暗い空。夜明けの近付きと共に魔力が弱くなったのだろうか? やっと落ち着きを取り戻した二人は、我に返り、悲鳴を上げる体を桜の絨毯に預けていた。
「……俺、クラトスと見たこの桜、絶対忘れないからな!」
疲れの滲む汗ばむ顔に、ロイドは相変わらずの屈託のない笑みを浮かべた。
「ロイド……」
「これからも少しづつ……、こうやって二人の思い出作って行こうぜ!」
逞しくなった息子が手を差し伸べる。
「そうだな」
フ……と笑い、クラトスはその手を取った。
これからも、こうやって二人で。それはなんて幸せな。
「そんでその度にこうやって可愛いクラトスを焼き付けて……いてっ」
ゴンッとロイドの頭に鈍い音が響く。
「調子に乗るな」
「ははは……怒られちまった」
繋いだ手は離さずに。黎明に桜が染まるまで、寄り添う二人は花見を続ける────。
*
「ジャッジメント!!」
「ぎゃーーーーっっ!!」
ゼロスの脳天から、断末魔のような叫びが上がる。
昨晩夜桜の魔法だと思っていた異様な興奮は、ゼロスが興味本位で食事に混入した――しかもご丁寧にロイドとクラトスの分にだけ――媚薬のせいだった事が判明し、クラトスの怒りの一撃が炸裂したのだ。
それを見たロイドはつまらなそうに「結局、桜の魔法ってなかったんだなー」とぼやいた。
「そうだな……。だが、ないとも言いきれん」
「え? クラトス、それってどういう」
あの異様な興奮は神子のせいであったのだけれど。
声も、熱も、感触も……共に過ごす時間も。その全てが愛おしいと改めて思った。
夜桜と共に瞳に映ったロイドを思い出しながら、聞き返すロイドを余所にクラトスは嬉しそうに笑う。
ただでさえ愛おしくてたまらないというのに。前よりももっと、ロイドを好きにさせられてしまったのだから…………
これはきっと、夜桜の…………────