最近立て続けに入った依頼は、どれもそんなに大した仕事ではなかった。難易度の割に西へ東へ移動が多く、日数が嵩み、その間更に余計なトラブルにも巻き込まれ。何だかんだで碌に睡眠も取れず、漸く最後の報告を終えへとへとになったその足で、下町────自室へと帰宅したのが、今。
時刻は宵の口、酒場が賑わい出した頃。部屋への扉を開けるとよく知る声がした。
「お、おかえり、青年」
「何だ来てたのか、ただい……ま、っておっさん……、頭でも打ったのか?」
月明かりが射し込むだけの薄暗い部屋に、レイヴンと思しきシルエットを捉える。一瞬違和感を感じたが、返事をしながら灯を点けた瞬間、ユーリは言葉に詰まった。
「……聞いてもいいか。……何してんだ」
「にゃ~~~?」
「おいおい、遂に言葉まで不自由になっちまったのかよ」
「やぁね、言葉までって何よ」
灯で開けた部屋。瞳に映るは、猫耳……のカチューシャだろうか。
黒い猫耳を、癖のある跳ねた髪から生やしている、よく知った顔がベッドの中心に座っていた。そーゆー店に行けば珍しくもないが、今ここで、しかもそれをおっさんが付けているなんて、倒錯的過ぎて頭を抱える。
「え?……は?ちょっと待て。理解が追いつかない」
「小難しいことは考えなさんな♪」
(疲れすぎて夢でも見てんのか?)
ユーリは軽く頭を叩くが、眼前にはやはり、猫耳のレイヴンが存在している。仮に夢だとしたら、それはそれで自分の願望とやらに不安を覚えるのだが。
「今日はお疲れの青年を労りに来てやったのよ」
玄関に荷物を投げ捨て、ベッドへと近付けば、レイヴンに手を引かれる。パッと見────この際猫耳は置いておくとして、他はいつも通りだ。下半身だけしっかりと毛布にくるまっているのが気になるが、寒がりのおっさんの事だ、待っている間に掛けて寝ていたのだろう。
「そりゃどうも。んで、何してくれんの?」
男二人で寝るには狭いベッドに乗り上げ、覆い被さるように跨る。ぎしりと軋むベッドの音で、自然と性的スイッチがオンになった。
挑発するように唇を奪えば、首に手を回して応えてくる。レイヴン自ら舌を入れてきて、絡めたり、上顎を舐め上げてきたりと、かなり積極的だ。そのくせ鼻からは甘ったるい息を漏らして可愛らしさを演出してくるもんだから、ほんっと煽り上手だよ、と心の内で褒めてやる。
「せーねん、座って」
離れた唇が、何やら楽しそうに声を紡ぐ。言われるがまま、腰をベッドへと落とし、片足を立てた状態で座ると、嬉しそうに足の間に割り込んでくる。
「それじゃ、お疲れの青年にごほーししちゃうよ~、あ、間違えた。ごほーししちゃうにゃ~ん」
「ったく、どんなテンションだよ」
四つん這いから前屈みに。股間にすりすりと頬を寄せてくる様は、まるで本当にでかい猫のように見えて、呆れながらも己が昂るのを感じて苦笑する。
そんな心の悶着を知ってか知らずか、レイヴンは鼻歌交じりにユーリの下肢に手を伸ばし衣服を寛げていく。露わになった、まだ硬さを伴わないユーリの雄を大事そうに両の手で包むと、先端にちゅうと口付ける。
「っ……」
息を吹きかけたり、ちろちろと舐めてみたりと、好き勝手に息子とじゃれ合うレイヴンに焦れったさを感じながらも、それはあっという間に硬度を増していく。
比較したことなんてないが、レイヴンが言うには他者よりも立派なそれは、すっかり上向きに聳え、咥えるレイヴンの口元を歪ませる。
「んっ、ふぁ……どーお?きもちぃ?」
上目遣いで、これ見よがしに竿を舐め上げながら問われ、ビクビクと脈打ち更に自身が質量を増していくのを感じる。
「お陰様で、な……」
「良かった。出したくなったら出しちゃっていいからね」
レイヴンの翡翠の瞳が淫靡に曲線を描く。疲れた頭と体は欲に従順で、そんな風に煽られれば耐えられるわけもなく。じゅぽじゅぽと唾液を垂らしながら咥え込み、上下にピストンされ、柔い唇がカリを掠めれば、ユーリは呆気なく限界へと導かれた。
「レイヴンっ……出るっ……」
シーツを握り締め力む。脈打つ剛直が、濁音を立て、咥えたままのレイヴンの口内へと射精する。
「んぐ……っぶ……ぐ、……ぷぁ」
ビクビクと大きく脈動し、ユーリが管から外へと吐き出したそれをゴクリと飲み込み、レイヴンの喉仏が上下する。
ご丁寧に鈴口を吸い上げ、残滓まで残らず搾り取られた。
「っ……は……」
ユーリは自分が思う以上に早過ぎた絶頂に、きまりが悪そうに首を掻いた。
疲労と相まって達した後の脱力感が酷く、体が重い。代わりに、ぼんやりしていた頭は、靄が晴れるように少しずつクリアになっていくのを感じる。
そしてふと。ユーリは気がつく。
未だ不自然にレイヴンの下肢に巻き付いた毛布と、その内で、もぞもぞと動く下半身の違和感に。
「……なぁ。それ、寒いわけじゃないんだよな」
じゅるりと、吸い出し飲み込みきれなかった白濁を、猫のように手で拭っていたレイヴンの動作が、ぴたりと止まる。
「……」
よくよく見れば、こちらからは触れてもいないのに、レイヴンの頬は火照り、はぁ、と甘い息を漏らし、体を微かに震わせている。
ユーリは何かがあるという確信の元、帯び回しが如く、レイヴンにぐるぐる巻き付いた毛布を剥ぎ取れば、既に衣服という壁を取り去った、ありのままのレイヴンの下半身がそこにはあった。が、驚いたのはそれだけじゃあない。
「なんだ、これ……」
頭についた猫耳と同じく、黒色をした尻尾が、生えていたのだ。レイヴンの尻から。
「ど、どーお?」
伏し目がちにそう言われ、達して萎えた自身が再び熱を帯び剛直へと変わっていくことで、言葉を返すよりも先に体が返事をしてしまう。
足を閉じて隠してはいるが、レイヴンの中心は半勃ち状態で、ぽたぽたと先汁を垂らしているのがわかる。
「あは……喜んでくれたってことで……いいのかな?」
剛直に愛おしそうにキスをして、とろけた瞳でにへらと笑うレイヴンに煽りに煽られ、今達したのが嘘のように、ユーリのそれは更に昂り張り詰める。
「っ随分とサービスしてくれるじゃねぇの」
「ユーリに楽しんでもらうため、だからね」
白状しよう。俺は猫耳が好きだ。
何がいいかと問われれば、長くなるので割愛するが。それを愛しい人が身につけた上に、どエロい事して迫ってきてるわけだ。
(こりゃあ、据え膳食わぬは男の恥ってやつだろ)
「こっち向けてちゃんと見せてくれよ」
「物好きなんだから……」
(それを俺に披露してるあんたと俺、どっちが物好きなんだか)
さっきまでの勢いは何処へやら。
急に恥じらいを帯びたレイヴンはゆっくりと体を回し、尻がこちら側を向くと、ちらちらと振り返り様子を窺っている。
「楽しませてくれるんだろ?」
「ひ、引いてない……?」
「ははっ、ここで引いたら男じゃないだろ」
そういうことじゃないわよ、と自前の耳を赤く染めた猫が、それでもほっとした表情を浮かべたのを見逃さなかった。
(レイヴンは自分のエロさに無自覚すぎるな)
剥がされた毛布を手繰り、潜るように頭を隠し、観念したように尻を突き出してくる。
ふるふると揺れる黒い尻尾の根元は濡れていて、結合部がひくついている。
尻を鷲掴み、根元────蕾に舌を這わせると、「ひゃうっ」と何とも間の抜けた声が毛布の包まりから聞こえた。
一体どうなっているのかと尻尾を軽く引くと、ピン、と張り、しっかりと入り込んでいるのが窺えた。
そのまま引っ張れば、みちりと穴が広がり、濡れててらてらと光る表面を覗かせる。もっと力を込めて引けば、淡いピンク色の小さな球体がぼこりと姿を現した。
「んぉっ……」
同時に尻が跳ね、合わせて嗚咽のような嬌声が上がる。蕾はきゅうと閉じ、溢れた液体がつうと太腿へと伝っていく様が何ともいやらしい。
玉一つ分だけ外へと出てきた、まだレイヴンの尻から生えたままの尻尾が、あとどのくらい深く潜り込んでいるのか。
たった一つ排出しただけでこの有様だ。これを引き抜いたらレイヴンが一体どんな反応を見せてくれるのか。
考えたらワクワクするのを通り越し、ユーリは体の奥底がゾクゾクして堪らず生唾を飲む。
期待に呼吸が荒くなる。
グッと根元を握ると、レイヴンは察したのか、きゅっと尻が強ばった。
毛布の中から漏れる、ふー、ふーというレイヴンの息遣いを聞きながら、ユーリは尻に繋がる揺れる尻尾を、躊躇いなく引き抜いた。
「っっんぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉ~~~~~っっ!!」
スボボボボ、と手応えを感じたのと同時に。
レイヴンから雄叫びにも似たくぐもった鳴き声が上がり、ガクンガクンと膝が揺れ、続いてビシャッという水音が響く。
「っぁ、ぅあ、ゃ、~~~っぅぅ」
レイヴンの性器から、水音に恥じない勢いで透明な液体が吹き出す。
「とま、なっぁ、ぁっ……ゆ、り……ぃ」
少しずつシーツが水気を吸い、染みを広げていくが、吸いきれずに水溜を作り出す。その上に、更に放出された液体がかかり、ぴしゃぴしゃと飛び散った。
ユーリは左手に握られた尻尾の先に視線をやる。五連に連なった玉が、しとどに濡れてきらきらと光を帯びている。これが勢い良く中を擦り上げたせいで、レイヴンはどうやら潮を吹いたらしい。
「こんなもんどこで見つけてきたんだか」
口にするも、レイヴンに答える余裕などなく────そもそも、聞こえているかすらも怪しいが。
尻尾という名の陰具を失い、ぱくぱくと寂しそうにひくつく下の口に中指を差し込む。
ぬめる腸壁は、何の抵抗もなく付け根までを飲み込んでいく。
「ひ、っぁ……」
ついさっきまで、無邪気に戯れるでかい猫だったのに。指を抜き去ればふるりと体を震わせ、毛布に爪を立て、頑なに頭を隠すその姿は不機嫌な猫のようで。
そんな、まさに気まぐれと言える猫をあやす様に、ユーリは優しい声音で問いかける。
「なぁ、そろそろそっちも見せてくんない?」
そっち、とは勿論、耳のことだ。
毛布をギュッと握る仕草から、ちゃんとこちらの声が届いているのだとわかる。
恥ずかしさで躊躇しているのか、暫し待っても出てきてくれない猫に、やれやれと溜息を吐き、一拍置いて、とびきり優しく名前を呼んでやる。
「レーイヴン」
「……ぅ……ユー、リ」
翡翠の瞳を涙で潤ませて。頬を真っ赤に染めた猫────もといレイヴンがおずおずと毛布から顔を出す。
「やっとお出ましか」
「あの……ユーリ、俺……」
疲れが極限状態なのだろうか。か細い声を上げるレイヴンの猫耳がしおしおと項垂れているように見え、ユーリは慌てて数度瞬きをした。
かたやレイヴンはユーリから何度も目線を逸らし、気まずそうにしている。それを見てユーリは察する。
(こりゃベッド汚したこと気にしてるな)
そこに恥ずかしさが上乗せされてるんだ。気にするなと今言ったところでどうせ無駄だろうし、いっそからかってやった方がいいだろうと、尻尾の玉の部分でぺちぺち尻を叩きながらユーリは言う。
「そんなにこれ、気持ち良かった? もっかい入れてやろうか?」
当然冗談だが、途端、レイヴンは気にしていたはずのベッドの泥濘にぐしゃりと乗り上げ、振り返る。
「やっ……俺ユーリの……が…………って……あ……」
予想以上の食い付きにユーリは面食らう。
「俺のが?」
「……欲しい、です」
「っは、なんで敬語だよ」
思わず本音が漏れたレイヴンに、ユーリも思わず笑う。レイヴンは湯気でも立つんじゃないかって程顔を赤く染め上げた。
「ほ、欲しい……にゃあ?」
「ぷっは……合格」
熟れた真っ赤な顔で。思い出したかのように、振り絞って猫を演じるレイヴン。
本当は俺の事をリードする予定だったんだろう。そのために、自分で慣らして、準備して、ここで俺の帰りを待っていたであろう猫に愛しさが脳天を突き抜けて、自慢する相手もいないのにしたり顔をしてしまう。
「ほら、おいで」
「〜〜っっ」
手を伸ばせば嬉しいとも恥ずかしいとも取れる締りのない表情を浮かべ飛びついてくるでかい猫を受け止め、口付ける。
跨るレイヴンの、口寂しく開いたままの後孔に、己の剛直を宛がい、腰を押し上げれば、指を飲み込んだ時同様、すんなりと中へと招かれる。
「っは、ぁ……ユーリの、気持ちぃ……にゃぁ」
「そんな積極的になって……後で忘れてったって忘れてやれねぇからな」
「ぁっ、ふぁ、い、じわる、言わないで、よ」
「悪い悪い、からかわないからさ」
その蕩けた可愛い声で。緩んだ可愛い顔で。
「もっと、俺のために鳴いてくれよ」
その晩、飼っていないはずの猫の鳴き声が、ユーリの部屋から甘く甘く響き渡るのだった────。
2022.2.22
スーパー猫の日