綺麗な黒髪のカーテンが顔の横に掛かり、部屋を照らす灯りを疎らに遮る。頬を擽る一束を軽く掴んで、レイヴンはユーリの顔を引き寄せた。
「ねぇ、今……何考えてるの……」
すぐ傍にいるのに。密接に繋がっているのに。それなのにどこか遠くを見ているような、焦点が自分に定まっていないユーリの瞳に、レイヴンは不安と苛立ちに駆られる。
「…………」
掴む力が増す。
ユーリは、答えない。
代わりにしっかりと黒曜の瞳にレイヴンを映し込むと、困ったように笑って、自らの唇でレイヴンの口を封じた。
「ふ……っは……ゆ、ぅり……」
息継ぎに離れた口で、ユーリの名を呼ぶ。ユーリはやはり何も答えぬまま、整った薄い唇で、もう一度レイヴンの口を塞いだ。
再び離れる時には互いの舌と舌が銀糸を帯びて、誤魔化されていると知りながらも、レイヴンの体は無意識にユーリの舌を追い掛けてしまう。
「はふ……、ん……」
「髪、痛てぇよ」
蕩けたレイヴンの表情に、優しい、けれどどこか悲しそうな顔をしてユーリが声を紡ぐ。
「だっておまえさん、心、ここに在らずなんだもんよ……ね、何考えて……んぁっ」
レイヴンが気持ちを告げている最中に、ぞろりと肚の奥の熱が動いた。
「まっ、て……! ゆ、り……ぃ!」
咥えこんだユーリの雄に引き摺られ、肚の中身を持っていかれそうな感覚に肌がぞわりと粟立つ。抜けるギリギリのところで押し込まれると、質量は変わらないはずなのに圧迫感が増した気がした。
「ぐ、ぅ、……んぁぁ……」
少し苦しくて。でも気持ちよくて。レイヴンは掴んだままのユーリの髪を、加減を忘れて引っ張ってしまう。
「だから……痛てぇって……」
痛いと言いながらも、レイヴンの手を離そうとも、動きを止めようともしない。それどころか挑発的な笑みを浮かべて、いつの間にかいつものユーリに戻っていることに、安堵とどこか埋まらない溝を感じて、レイヴンは目尻から雫を落とした。
「なぁに、泣いてんだ……よ」
ユーリはレイヴンの中を何度も往復させ、腸壁に摩擦を与えては掠れた声で笑う。
「あっ、ぅ……んん……泣い、て、ない……」
「嘘つき」
言葉と同時に肚の奥の奥を叩かれて、レイヴンの腰が跳ねる。強烈な快感に見開かれた目にユーリが迫り、思わずギュッと目を瞑った。閉じたことで溢れた左目の涙を、ユーリは腰の動きに反して、柔らかすぎる口付けで拭った。
「ひっ……ふ、ぅ」
「泣いてんじゃねぇか」
口付けと同じだけ柔らかく髪を撫でられ、優しい手つきに更に涙が零れた。
「ユーリ……、ゆー、り」
限界が近い体は、自身の意志とは関係なく淫らに腰を揺らして。
「ぁ、あっ、……だめ、も、い、く……っ」
レイヴンの体が、一瞬硬直し、直後に大きく跳ねる。上向きになった自身からは、白く濁った液体が数度にわたり吐き出され肌を汚した。
「ひぁあっ、あ、ゆ、りぃ! ひっ、んぁっ、あっ」
余韻に浸る間もなく、達したばかりで痙攣するレイヴンの体を、ユーリは容赦なく貫く。弱いところも、入り口付近も、奥も。レイヴンの全てを己の熱で掻き回して、ユーリは自身を高めていく。
「……っく……」
遅れてユーリもぶるりと体を震わせ、レイヴンの中へと精を放つ。熱塊が脈打ち、どくどくと注がれる液体がじんわりと温かくて、レイヴンは空いた手でそっと腹を摩った。
「んっ……ひ、ぅ……」
呼吸を整えながら、行為が終わると必ず襲ってくる睡魔に、レイヴンは瞼が段々と重くなってくるのを感じる。抗って薄目を開けてみても、ぼやけた視界ではユーリの伏せられた表情は読み取ることが出来なかった。
「ゆ……り」
か細く名前を呼ぶと、ユーリは優しくレイヴンを抱きしめる。
「……ごめんな」
瞼が閉じる瞬間に、ユーリがぼそりと呟いた。
その言葉の意味がわからぬまま、レイヴンは眠りへと落ちていく。
最後まで、ユーリはレイヴンの問いには答えることはなく。掴んでいた黒髪は、するりとレイヴンの手から滑り落ちた。
2022.8.26