煽り上手な恋人と

「ほら、こっち向けって」

「やっ、だ……」

 くしゃくしゃになったシーツの上。

 ユーリの目線の先には、汗に濡れる艶かしい肌色。

「恥ずかしいから、や……」

「や、って……」

 膝裏を掴み、開かれた、少しも無駄のない引き締まった太腿の間。汗とは違う透明な液をとろりと垂らし、茂みに揺れるレイヴンの雄が見える。

「そんな可愛い言い方されても、拒否とは受け取らないからな」

 そこから更に下。普段は閉じている排泄の為の小さな穴を通して、ユーリの硬く熱を持った昂りは、レイヴンの内側へと繋がっていた。

「っひ、……おっきく、なったぁ」

「毎回ご丁寧に、あんたが煽ってくれるから、だろ」

「んっ、ひ、お、くぅ……きもち、っんぃぃ」

 みっちりと結合した熱塊をスライドさせれば、水音に合わせて、レイヴンの口からは呂律の怪しい音の数々が漏れ出してくる。

「あっ、はぁっ、ら、めっ……ゆーりっ、きもちぃっ」

 もうずっと閉じていない、だらしなく開いた口から溢れた涎が、シーツに落ち、吸われていく。

 首を横に傾けたレイヴンは、両腕で顔の上部を隠していて、見えるのは喘ぎを放つ口元だけ。

 せっかく正常位だというのに、愛しい者の顔を見る事が出来ずに、ユーリの顔には些か不満そうな色が浮かびはじめていた。

「いい加減、……顔見せろって」

 焦れったくなり、片腕でレイヴンの顔を覆う手を掴むと、首をふるふると振り拒否される。

「やっ……だっ、ぁあ、っっ〜!!」

 何度となく訪れ、通い慣れた腸壁にある"好きな所"を当てるのは、ユーリにとって朝飯前だ。

 前立腺を抉るように押し込めば、レイヴンが紡ぐ拒否の言葉は、強制的に喘ぎへと変えられていく。

「あんたのやらしいとこ、もう全部見えてんだ……」

 ユーリの先走りとローションのせいでぐちゅぐちゅと音を立てる秘部も、奥を突くたびに先端から汁を滴らせる屹立も、全てが露わにされているというのに。

 今更、何をそんなに恥ずかしがる必要があるのだろうか。

 仮におっさんの顔なんて見たら……などと言われても、それこそ今更。

 髭を生やした顎周りに、いかにも男らしい、柔らかさを感じない体。極めつけは中心部に自分と同じモンが生えてるのを見ても、萎えるどころか今まさに膨張しているユーリの剛直。

 例えレイヴンがどんな顔を見せたとしても、萎えるはずがないのだ。

「観念して、顔も見せてくんねえか」

 頑なに隠し続けるレイヴンにじりじりしてくる気持ちを抑えて。

「……な?」

 ユーリは出来る限り優しい声音で、レイヴンへと問い掛けた。

「んぅ、ぁ、〜〜っ……ず、るい……んんっ」

 そんなユーリの声に反応して、レイヴンの腕から力が抜ける。

 横へと開けていく腕の隙間から、少しづつ。鼻筋、赤く染まる頬、そして……。


 潤む宝石のような瞳と────目が合った。


「ぁ……っ♡」

 瞬間、きゅうっと、後孔が締めつけられる。

「っっぐ!?」

 急な強い収縮に、ユーリの息が詰まる。危うく達しそうになり、剛直はビクビクと小刻みに震えた。

「んだ、いきなり……!」

「あっ、はぁ……だっ、てぇ……」

 ようやく待ち望んだレイヴンの顔が、見えたと思った途端の出来事。

 ユーリは荒い呼吸を繰り返して己を落ち着けると、腰を動かして、再びレイヴンの内側を堪能する。

 一突きする毎に、恍惚に蕩けるレイヴンの瞳に、ユーリの心臓が高鳴る。

「ゆ、りの顔っ……んぁっ、か、お、見たらぁ」

 喘ぎ混じりに、レイヴンがぽつりぽつりと吐き出していく。ふにゃふにゃに溶けた声を聞きながら、ユーリはゆっくりと腸壁を擦り上げていく。

「見たらっ……なんだって?」

「っっ♡ み、たらぁ……っ、おれ、が、っ……ゆーりのことぉっ、すき、なのっ……んぅっ! バレちゃうからぁ……っ」

 何を言い出すのかと思いきや……今まで必死に視界を遮っていた理由が、大層可愛いもんだから。

「っっ! ……っんなもん、見えなくたって、バレてるっつーの……!」

 恋人のあまりの愛おしさに、ユーリの息子は今やはちきれんばかりに膨張している。

 更にレイヴンの中の良さも相俟って、ユーリの下腹部は張り詰め、そろそろ限界が近い。

「あぅぅ! んっ、ゆぅ、りぃ……っ、すきっ……すきっ」

「ったく……そういうのが、煽ってるってんだよ……!」

 ユーリは自らを追い込むように速度を上げ、腰を奥まで打ち付けては引き戻す。

「んぁあっ! ふかぁ……おっ、くぅぅ」

 絡みつく肉壁の熱に溶けそうになりながら、ユーリは何度もレイヴンの中を往復して。

「っは……俺も、あんたが……」

 熱い息と共に、レイヴンへの思いを吐き出した。

「好き、だ……レイヴン!」

「〜〜っっ! らめっ、ぃ、っく、いっちゃ……ぅうう!」

 声に反応して、レイヴンの体が痙攣する。下肢の間にあるレイヴンの昂りが、白濁を放ち揺れている。

 熱と摩擦と、搾り取るような締め付けに。ユーリもたまらずレイヴンの中へと、精を放った。


 汗と精にまみれ、互いに荒い息をして。

 未だ満たされない欲を浮かべるレイヴンの瞳に、ユーリは吐精を終えた自らをずるりと抜き去り、喉を鳴らして笑った。


「今度は……近くで見ながらさせてくんねぇか」


 抱き締めて、耳元で囁く。


 熱を灯されたレイヴンが、返事の代わりにこくりと一つ頷くのを確認して────


 ユーリは黒曜の瞳の中に目一杯、レイヴンを映し込んだ。






2023.1.7