寝ても醒めても

「ぁ……あっ、はぁ……」

「レイヴン……出すぞ……っ」

「はぁっ、ぁんっ、ちょ、だい……ゆーり」

「……っっ!!」

「っあぁぁ〜〜、ひぁっ……ひっ、~っぁァァ」




       *



「…………」

 目を開くと、窓から射し込む光で朝を迎えた事に気が付く。眩しさに慣れず、数度瞬きをした。

 レイヴンはまだ醒めきらない、ぼんやりとした頭で昨晩の行為を思い出す。

(寝ちゃったのか……あのまま)

 背後に感じるユーリの熱と呼吸。横になった体には、絡みつくようにユーリの腕が回されていた。

 タイミングが合わず、すれ違いを続け、昨日は久方ぶりにベッドを共にした。溜め込んだ熱を吐き出し合い、受け止め合う。いつになく昂って、とんでもない事を口にしてしまった気がしなくもないが、あまり良く覚えていないのが幸いだった。

 漸く目が部屋の明るさに慣れてきて、レイヴンは考えるのをやめた。そろそろ体を起こそうと動かしたところで、ふと、違和感に気付く。

「……?」

 ユーリも質量を保っていないし、昨晩の名残りもあるし、寝惚けた頭ではすぐにはわからなかった。

 しかし気付いてしまえば、もうそこから意識を背ける事など出来ず、レイヴンは首から上にかけて急速に熱を帯びていくのを感じた。

(中、入ったままじゃない……!)

 思わずキュッと力んでしまい、そこにユーリが居ることが夢などでは無いことと、それにより再び昨晩の記憶が思い出され、鼓動が騒ぎだす。

 ユーリによって開き、貫かれた尻の中に、未だ寝ているユーリ自身が収まっていた。

 よく抜けなかったなと思ったが、一糸まとわぬ二人は、肌と肌が溶け合う程にぴったりと密着し、眠りに就いている間動く事がなかったのだろう。繋がったままの状態で互いに眠りに落ちるなんて、俺らはどれだけ飢えていたんだと、レイヴンは顔を引き攣らせながら笑った。

 それはそうと、このままでいるわけにもいかず、何とかしてこの状況を打破すべく身を捩ってみる。後ろの男は本当に寝ているのかと聞きたくなる程に、強く抱え込まれ、腹に回る腕をそっと掴んでみてもびくともしない。

「ん……っ」

 動こうと体に力を入れると、どうしたって腹や尻も力んで中にいるそれを意識してしまい、レイヴンの鼻からは思わず甘い息が漏れた。


 ────ここで再び昨晩の話をしよう。

 何を口走ったか、あまり良く覚えていないと言ったが、記憶にないのはそれだけではない。自分がいつ眠りに就いたかも、レイヴンは覚えていないのだ。

 つまり何が言いたいかというと、中途半端なのだ。

 熱が。欲が。

 こんなことを言うと欲張りだと笑われてしまいそうなので声には出さないが、満足するまで抱かれて眠りたかった。それが、途中で落ちたのだ。心地好い温度と、声と、快楽で。

 そんな半端な体は、少し突かれただけで、抱かれる前と同じように点火してしまうわけで────。


 もがけばもがくほど、自らの首を絞めるように、ユーリを感じて欲が増す。遂には背中に感じる体温と、首元を微かに揺らす寝息にすら、ゾクリと疼いた。

「っふ……ぅ」

 呼気に甘さが混ざるのが自分でもわかる。孔がきゅうきゅうとユーリの柔い雄を食らい、甦る快感と、それに伴う物足りなさ。

 気付けば自身は、すっかり頭をもたげていた。

「は……ぁ……」

 つい数刻前まで擦られていた腸壁が、刺激を求めて腰を揺らしそうになりグッと堪えた。

 こうなったらもう、ぐっすりと寝ているユーリを起こす他無いと、名を声に出そうとして開いた口から、自分が意図していない声が上がる。

「あっ?!」

 尻の中。中から食われるような、押し広げる質量と熱。芯を持った一本の槍が、ググッと貫くような感覚。

 慌てて口を手で覆うも遅く、頭の後ろでくくっと喉の鳴る音がした。

「っ起きてんの?!」

「ああ、あんまりにもあんたがやらしい声出すもんだから、寝たフリすんのも大変だったな」

 驚いて問うレイヴンに、ユーリは笑いながら答えた。背後から届くユーリの声は、寝起きで少し気だるげで、僅かに甘えが混じっている。

「いつ、からよ」

「腕掴まれた時にはな。おはよ、レイヴン」

「っ〜……お、はよ」

 気付かなかった間の、まるでユーリを使って自慰でもしているかのような行動が全てバレていた居た堪れなさに、レイヴンの挨拶を返す声は消え入りそうだった。

「なに照れてんだよ」

「照れてるわけじゃ、ないわよ……」

「んじゃ何で耳が赤くなってんだレイヴンさんよ」

「あっ、ゃ……」

 耳を目掛けてふぅと息を吹きかけられ、背筋がゾクゾクした。そして、今や中で完全に質量を取り戻したユーリを反射的に締め付けてしまう。

「なあ」

 そのせいか、さっきまでの甘えたな青年はどこへやら。ユーリの声に熱が篭り、レイヴンの肩がびくりと跳ねる。

「な、に」

「俺、まだ足りてねえんだけど」

 腰をくいっと押され、中のユーリが奥へと進む。

「ふぁっ! ユーリ?!」

「あんたは満足したか?」

 レイヴンの返事を待つ気があるのかないのか、今度は腰をゆっくりと引いていき、飢えた腸壁には足りない刺激を与えられる。

「もっとあんたがほしい。あんたはどうだ?」

「聞かないでよ……」

 ストレートに求めてくるユーリの言葉に、心臓魔導器が激しく脈打つ。

「……昨日はなんだっけか。中に欲しい〜とか、抜かないで〜とか積極的だったのに、つれねえなぁ」

「ちょっと! そっ……れは……!」

 揶揄うような口調で、何となくそんな事を言ったような気がするが、定かではなかった記憶をユーリに引っ張り出され、レイヴンは言葉に詰まる。

「……嫌ならこのまま抜くな」

 ユーリの熱が段々と下へ降りていく。密着していた腰が離れて、尻の辺りがすうっと冷たくなる。

(や、だ……)

 普段の饒舌さは何処へ消えてしまうのか、欲しいの一言すら声に乗せるのが難しい。でも、今、言わなければ。

「ぬ、かないで……」

「ん?」

 この熱を、失う前に。

「抜いちゃ、いや……だ」

 ずくん、と中の質量が増す。

「俺も、もっと、……ユーリがほしい」

「っ、仰せのままに」

 ユーリが嬉しそうに言葉を紡いだ直後、パンッと肉を叩く音と共に、張り詰めたユーリの剛直が奥へと叩きつけられる。

「んぉっ……♡♡」

 レイヴンは目を見開いた。瞼の奥がちかちかする。片手はユーリの腕をぎゅっと掴み、もう片方の手はシーツが破れそうな程に強く握り、爪が軋む音がした。

「そういや昨日は、よすぎてバカんなるとも、言ってたよ、なぁ」

 引く時はゆっくりと、進む時は一気に。ユーリは腰を動かしながら、昨晩のレイヴンの痴態を晒していく。

「ぉっ、あっ、いきな、りぃっ、はげし、のぉ、だ、めっ」

 待ちに待った刺激に、ひと突きされる毎に、脊髄を通って脳に甘い痺れが伝わっていく。パンッと響く音でタガが外されていくかのように、レイヴンの口からは喘ぎと抑えていた本音が漏れる。

「またっなっちゃう、からぁ! んぉっ、またっ、バカんなっちゃう、からぁぁ」

「でも、やめたくないんだろっ?」

 昨晩腹に出され、そのままになっていたユーリの精液が、中を押す度にぐぢゅりと音を立て、レイヴンの羞恥を煽る。

「んひっ、ぁっ、やめ、たくないぃ」

 それでも会えない間溜め込んでいたユーリへの欲は、火を灯されてしまえば満たす以外に消す方法など無く。

「っは、素直なあんた、好き、だぜ」

 意地張ってても可愛いけどな、と笑うユーリの言葉にさえ、全身を震わせて感じてしまうのだ。

「ひぁっ、おれも、ぉっ、れもぉっ」

 ぴったりと密着して、かつ腹を抱える手も離してもらえず。腰を反ることも、快感を逃がすことも出来ずに、唯一動ける足がつりそうな程にピンと張り、指先がビクビクと跳ねる。

「ぁっ、す、き、ゆぅり、すきっ……」

「レイヴン……」

 吐息混じりに名前を呼ばれ、ギュッと尻が締まる。

 余裕のないユーリの声が好きだ。自分に興奮して、今自分のことでいっぱいになってくれてると思えるこの瞬間が、堪らなく。

「もっとぉ、んぉっ、呼ん、でっ」

「っは、レイ、ヴン、好きだ、レイヴン」

 ユーリに呼ばれ呼応するように、下腹部がきゅうきゅうと痙攣する。腰を引かれる度に体が震え、突かれる度にびくりと跳ねた。

「んぉっ、ぉっ♡ も、らめ、ぃっ、ちゃうぅ」

「あぁ、いっちまえ、すきなだけ、な」

 耳元で熱く吐き出される声に促され、レイヴンは鈴口から溜め込んだ液体を放った。

「ふぁぁぁ♡ ぁっ、あっ、きも、ちぃ」

 断続的に放たれる白濁液が、シーツを濡らしていく。

「ひっ、あぁあっ♡ ゅ、りっ、とま、ってぇ」

 収縮を繰り返す腸壁を容赦なく擦られ、敏感な体が悲鳴を上げる。ユーリは自らを限界へと導く為か、腰を緩める気がないようで。それどころか、先より激しく抽挿され、レイヴンはただただ痙攣し、閉じる暇すらない口から喘ぎと涎を溢れさせながら、ユーリの剛直を締め上げる。

 吐精を終えて項垂れたレイヴン自身からは、透明な汁がシーツへと垂れ流されていた。

「中、出すぞ……っ」

 腹をグッと押されれば内側がビクつき、喉からははしたない、くぐもった喘ぎが漏れる。

「ん゛ぉっ、ぃっ、ぉぐぅ……きもぢぃ……♡ ゆぅ、りっ」

「っく……!」

 ユーリが腰を打ち付ける度に、熱く猛る剛直が肉を抉り腹を叩く。本当に馬鹿になるんじゃないかと思う程、頭の中が快感で埋め尽くされていく。

 腹の奥で脈打つユーリから、熱い精液が放たれ注ぎ込まれる。

「〜〜っっ♡ ふ、ぁ……な、かぁ……出っ、てる……」

 苦しいくらいにギュッと抱かれながら、どくどくと吐き出されるそれを腹で受け止める。

 ひとしきり出したはずなのに、中を穿つ熱塊は、その硬度と質量を失うことはなく。痙攣する内壁を擦り上げながら、それはずるりと引き抜かれた。

「ん、っぉ……」

 回されていた腕が離れ、ユーリが背後で起き上がる気配がした。ふーふーと獣のような荒い呼吸。今にも覆い被さってきそうなユーリをレイヴンは首を傾けて見上げた。

 ユーリが抜けた穴が、寂しく疼いている。

「レイヴン……」

 頬を染め汗に体を濡らす、自分に欲情した男が次に発する言葉を、レイヴンは容易に想像出来た。

「うん、俺も……」

 尻に手を回し、今しがたユーリの剛直を咥えていた蕾に指を添え、開くように引く。

「俺もまだ足りないのよ」

 ごくりとユーリの喉から唾を飲む音がした。

「もっと、ユーリでいっぱいにしてちょうだい」

 開いた肉壺から、つう、と溢れた白濁が伝う。


 煽りやがって、という言葉を最後に、二人満たされるまで、理性も、言葉も、時間も忘れて繋がり合う。

 

 寝ても醒めても。

 この体と心を満たせるのは────


「おまえさんだけだよ……」






2022.4.17

リクエスト「起きても繋がったまま」