元に復する

 もう会えないかと思った日は柄にもなく落ち込んだもんだが。

 あっさり裏切ったおっさんは、あっさりと、また俺達の元へ戻って来た。


「……やっぱり、怒ってる?」

「怒ってないって言ったら嘘になるな」

 戻って来た喜びと、裏切ったことへの怒りと、おっさんの読めない感情への疑問。複雑に感情が混ざったが、最終的に喜びが勝った。

「何で戻って来た」

「おっさんは青年のことが心配でー……その、ね? ……好きなのよ?」

「あっさり裏切ったくせに良く言うよ」

 口をもごもごさせながら恥ずかしげに呟く姿が愛らしい。

 勢い任せで抱き締めてやろうかと思ったが、からかわれているだけかと思うと気が引けて、冷たい態度になってしまう。

「そゆこと言われるとおっさん傷つくなー……」

 冗談めいた口調の中に、微かに滲む寂しさに、違和感を覚える。

「……。なあ」

「ん?」

「それ本気にしてもいいのか?」

「へ?」

 おっさんの気持ちなんて、俺にこれっぽっちも向いてないもんだと思ってた。

 けれど、赤い顔して呟いた「好き」の言葉はどうやら嘘じゃないらしく。

 俺は、期待してしまう。

「俺あんたのことが好きなんだよ」

 目を見てそう言えば、驚きのあまり目を見開いて。

「お、おっさんをからかったって何にも出ないわよ?」

「からかってねぇよ。本気だ」

 自分から言い出したくせに、照れて下を向くレイヴン。その仕草だけなら、とてもおっさんとは思えない。

「じゃあ……キス、してくんない?」

 ちらりとこっちを見る赤く染まった顔に、興奮する。

「裏切った罰。おっさんから俺にしろよ」

「青年にはかなわないわ……」

 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに。一言発すると、俺の方を向いて……顔が近付いて。


 触れる、唇。


「……ヘタクソ」

「しょうがないでしょ、緊張……してるんだから……」

 年齢も外見も、可愛いなんてもんには当てはまらないが。

 どこをどう見ても、今のおっさんは可愛すぎたから。

「ユー……っ?!」

 衝動的に、自分からも口付けた。

 触れるだけのキスとは違い、突然の貪るような激しいキスは、おっさんの腰を砕けさせるには十分の威力を誇っていて。

「っはぁ……いっ、いきなりは酷いでしょうよ」

 腕にしがみついて荒い呼吸を繰り返して。そんなおっさんを抱き締めて。

「……俺をからかっても、何も出ねえからな」

「……からかってないわよ。おっさんこんなだけど、嘘は苦手なの」

 俺より少し小さいおっさんから聞こえる優しい声色に安堵して。

「もう、離れるなよ」

「……そう、ね」

 俺はキリがないくらい。溢れる愛しさをぶつけるように、いつまでもレイヴンに口付けた。