男は単純に出来てる。好きだから触れてぇ。好きだから、抱きてぇ。
ただ、同じ男でも相手側はそう単純に出来てないみたいで────。
ヴァージン×ナイト
「レイヴン」
呼んで、迫って、口付けて。
顔を仄かに染めてはいるが、余裕そうに応えてくる辺り慣れてんだろう。だったらその先も、といつも思うのだが。
「っぅ……」
何度も触れ合って、漸く許されたのは上部への愛撫だけ。服越しに触るだけで上がる動機に胸が高鳴る。たまらずはだけさせ、露わにしていく。
「せ、青年……?」
何も言わない俺に不安を感じたのか、しっとりと頬に触れてくる。
「……なんだ」
歴戦を駆けて来た鍛え抜かれた体と、心臓部にヌラヌラ赤い光を灯す魔導器。その対比が艶めかしい。
見入ってしまって疎かになる返事。気に食わなかったのか、頬に触れられた手に力がこもり抓られる。
「いてっ」
「あんまり見られると俺様ドキドキしちゃうって」
茶化すように言うが、単に不安なだけだろう。俺が黙るといつも機嫌を窺うように触れてくるから、同じく茶化すように返してやる。
「ドキドキさせたいんだよ」
「……物好きねぇ」
頭を掻くのは照れ隠しか。頬がほんのりと熱に染まっていく。それよりも遙か赤い、揺らめく赤の魔導器に再び視線を奪われて。
「綺麗だな」
「そんなにこれ、気になる?」
魔導器ばかり見ているからだろうか。それとも己の魔導器が気に入らないのか。不満そうに問いかけてくる。
「ああ」
「俺様は……これが不気味でしょうがないわ」
どうやら不満の理由は後者。
魔導器……レイヴンが、過去に死ねなかった理由。
「でも、おっさんの生きてる証だ」
正論を述べる俺の声が耳に届いてないのか。過去の自分を振り返るようにぼうっと、そしてどこかつらそうな表情を浮かべる。
「ったく……」
沈む頬を、レイヴンがしたように抓ってやれば驚きに肩を跳ねさせて。
「また思い詰めた顔しやがって」
「いた……いたたた、ちょっと青年手加減してよ」
「わりぃな。手加減したつもりだった」
僅かな怒りのせいで力がこもったか、痛みを伴ったらしい。手を離せば、指の痕が僅かに残るその箇所をさすり始めた。
……この魔導器があるから、今の俺達がいるっていうのに。あからさまにへこまれたら怒りたくもなる。
「次は容赦しねぇぞ」
「わ、わかってるわよ。……手厳しいわ、ほんと」
溜め息を吐く俺に苦笑を浮かべ、今度こそ照れ隠しに短い髭を弄る。その表情は困っているようでいてどこか嬉しそうだ。
そんな緩む口元にキスを仕掛け、真顔で問い掛ける。
「……なぁ、今日はいいか?」
耳元で一声掛ければ状況を思い出して再び顔を赤らめる。
聞いた内容はもちろん、これからの行為のこと。
「青年ってば……ほんっとに物好きなんだから」
「そうかもな」
その問いに初夜に戸惑う女のように、頬を染め目を泳がせて。同性だからって、これに興奮しない奴なんていないだろって可愛さ。
「緊張してんの?」
「おっさんだってね、緊張くらいすんのよ」
嫌なら断る素振りを見せる筈だが、それをせず必死に受け入れようとするレイヴン。
気持ちの整理が付くまで待っててやりたい。待っててやりたいけど……。
「んな態度見せられたら抑えらんねーな」
「?! ちょ、ちょっと待って! お、おっさん心の準備が……」
例えれば待ての出来ない犬のように。たまらず目の前にいるレイヴンを押し倒す。
軽く背中を打って吐き出される息を、吸い取るように口付けて。左手で下肢を探り、揉み扱く。
「んっ、んっ、リぃ!」
二、三度行うだけでレイヴンの雄は存在を主張し始めて。心の準備がどうこう言っても、体は素直なようだ。
「なんだ……おっさん感じてんじゃん」
「そりゃ……まだ、枯れちゃ、いないから……」
からかうように指摘してやればぷいっと横を向く。
胸に手をあてれば魔導器の心臓がドクドクと大きく脈打って、無機質なそれに、まるで感情でも宿っているような錯覚を覚える。
頭の片隅でそんなことを考えながら、手はズボンを通り越し下着の中にまで侵入して。どうせ後々邪魔になるし、第一に動かしにくいから。颯爽と下着ごとズボンを引き、下肢から取り払った。
レイヴンの足が、雄が、秘部が、全て露わになる。本能的に湧き出た生唾をゴクリと飲み込む。
手を伸ばし、直に触れるとレイヴン自身は俺の手より熱く、平に熱が伝わってくる。
「っぅ……」
軽く握ってやれば雄だけでなく体全体がびくりと跳ねる。そのまま上下に扱くと頼りない声で鳴いて震えた。
普段はおちゃらけたおっさんが、まるで小動物のように弱々しく見える。
「っぁ、~っ、ぅう」
「声、我慢すんなよ」
苦しそうだからそう促しても、恥ずかしいから無理と言わんばかりに口を塞いで首を振る。
だがレイヴンの我慢とは裏腹に自身は限界が近くて、鈴口から先走りを垂らし、俺の手を濡らす。
「くっ、ぅ、……ーリっ」
そしてレイヴンがイくことを伝えるより早く。粘ついた音と共に自身から白濁液が放たれ、レイヴンの腹を汚した。
「っは、ぅ……っ」
イった後の汗ばんだ肌。真っ赤な顔。自身の飛沫で汚れた体。そのどれを見ても興奮する。
「こんなんじゃ、見てるだけでイけたりして」
笑いながら言うがイったばかりで突っ込む余裕がないのか、益々顔を赤くして。
「あー……いつまで我慢、できっかな」
そんなウブな反応見てたら慣らす時間すら惜しいくらいに、欲望が渦巻く。
出来ることなら今すぐ入れてしまいたい。今すぐ、俺自身で鳴かせたい。
「……初めて、なんだもんな?」
「当たり前、でしょ……」
問えば小さく返事がくる。初めてだったら慣らさないわけにはいかない。本来ならそれすら楽しみの一つなのに、自分の余裕の無さに呆れる。
腹を濡らす白濁を掬い取り、その滑る指をレイヴンの固く閉じた蕾へと運ぶ。指先が触れれば強張るように更に閉じて。
「おっさん、痛いのは……あんまり……」
「年長者が情けねえぜ?」
恐る恐る意見してくるから、緊張を解すように空いた右手でもう一度レイヴン自身を扱いてやる。
「あっ、ぅあ」
意識がそっちに向いて力が抜けた隙に、傷つけないようにゆっくりと、指を中へと潜り込ませる。
「ひぁっあぅぅ! な、んか……きもちわる……っ」
初めての進入物に戸惑うレイヴン。内壁も知らぬ感覚を追い出そうと締め付けてくる。
「すぐ、良くなる」
「くっ、ぅう、ぁっ、ん」
前を扱きながらゆっくりゆっくり出し入れをしてやれば、指の感覚に慣れてきて徐々に甘い声を上げる。
無理のないように指を増やしたが、気付いているのかいないのか。
「あぁっ、ぃ、ゆぅ、りぃ」
拡げても痛みを感じるどころか恍惚とした様子から、そろそろ入れても大丈夫か? と期待に胸が高鳴る。
我ながら良く耐えたよ、なんて。
ちゅ、という切なげな音を残して、指を抜き去る。引き抜く感覚にすらレイヴンの体は快感を拾って。
「んぅ、ぁ……?」
浸りきってたレイヴンが火照る顔で「どうして?」と言いたげな視線を向けてくる。
レイヴンの雄は今にもイきそうに震えていて、途中で刺激が止んだのがツラいんだろう。
「青、年……」
「待ってろ。今、イかせてやるよ」
そんな不安げに揺れる視線に見せつけるように下肢を寛げて自身を取り出せば、一瞬怯えるような表情を浮かべる。
「っぁ……ほ、ホントに……これ……?」
「そ。おっさんの中に、な」
触らずとも血が滾った俺自身を蕾へとあてがう。
「っ……」
これから起こることへの期待と不安にふるりと震える体。
窄みと接着した部位が、熱を感じて。間を置かずしてずぷっ、と生々しい音を上げ、俺の自身が、中に入る。
「んあアぁぁあっっ!」
挿入と同時にレイヴンから白濁液が放たれる。中に感じる質量と熱に、先程まで控え目だった声が腹の底から溢れ出す。
抑えようと口を塞ぐが、それでは足りず指の隙間から零れ出た。
「ふぁあアっ、あ、つ……ぅあぁ?!」
「っ……やっぱ狭い、な」
イったせいで余計に締まる後孔にいきなり吐精を促される。
「おい……っ、そんなに締め付けたら動けねぇだろ」
「そ、んなこと……言ったってねぇ……体が、ぁ、勝手、にぃ……んはぁ」
無理矢理にでも動いて掻き乱してやりたいが、それをするには今のレイヴンは余りにも非力で。最初から半ば無理矢理なのに、可哀想か……なんて思ってしまう。
仕方なくレイヴンが呼吸を整える時間を与える。
時々キュッと締め付けて甘い息を漏らしながらも、強張った体は徐々に解れ。
「ふ……は……、ユー、リ……」
「なぁ、もう……動いて、いいか?」
名前を呼ぶ声に高鳴る。苦しそうなレイヴンを「可愛い」と思っちまうのは危ない感情なのだろうか。
肢体を眺めてるだけでも張り詰める自身が、早く早くと急かすように、後から後から欲が押し寄せて。
「っ……ん」
そんな俺に応えるように腕にギュッとしがみつき、目を伏せ頷く。
俺はレイヴンの返答に満足して、恥ずかしげにやんわり閉じられた足の膝裏辺りを掴み。持ち上げるようにして広げ、深く、進み込む。
「ふぅあぁっ」
最奥部で一度止まり、息を吐く。
「ツラかったら……止めてやるから」
自信はねぇけどな、と付け加え。差し込んだ自身をゆっくりと引き戻し、勢い良く再び最奥部まで押し込んだ。
「ひあぁあああっっっ!?」
その後は容赦なく抜き差しを繰り返して。
「ひっ、あっ、アっ、アアっ!」
押し込む度に大きく声を上げ、引き抜く度にぶるぶると震えて鳴く。
「ユー、リぃっ、んはっアアっ、くぁあっ」
強くしがみつかれ、だらしない割には綺麗に切り揃えられた爪が、服の上からでも食い込んで少し痛い。
「……レイヴン」
呼び掛ければ生理的に潤む瞳をこちらに向ける。
「ゆ、リ……も、っ、もうっ……」
余裕の欠片も感じない素振りからレイヴンの限界を知る。
「俺も、もう無理」
そんなに暑い日でもないし、そんなに長時間こうしていたわけではないのに。二人の体は異様な程に汗に濡れていて。
互いに全く余裕がない。
「一緒にイくか」
声をかけ、ラストスパートとばかりに激しく突き上げれば、跳ねるように体を震わせ痛々しいくらいの喘ぎを発して。
「ィアアぁあああぁっっ!!」
「……っ」
搾取されるかのような締め付けに、俺はレイヴンの中に精を放ち、レイヴンは放線を描きながら己の腹の上に三度目の液を放った────。
「おーっさん」
口を開けたまま、まだ荒く呼吸をするレイヴンは目が虚ろで。体を動かすことを忘れたみたいに呼吸で凹凸を繰り返す腹以外が止まったまま。
悪戯にキスで口を塞いでやると、苦しさで漸く俺を押し返すために手が動いた。
「っ、はぁっ、くるし……っ」
「お疲れ」
意識がはっきりしてきたレイヴンに、詫びの気持ちも込めて言う。
「はぁ~……青年は若くていいわねぇ……」
息一つ乱さない俺に若さを見出して溜め息。
「まあな」
無茶させたのに怒るでも泣くでもなく、ツラい筈なのにいつもみたいにへらへら笑ってみせるレイヴンに無性に愛らしさを感じて、横たわる体を抱き起こして、抱きしめた。
「……ありがとな」
「あら……急にしおらしくなってどうしたのよ」
「なんとなく」
突然お礼を言われて戸惑うが、同じように緩く抱き返してくれて。
「おっさん……嫌じゃなかったわよ」
しかも気遣ってボソッとだけどそう言ってくれるから。
「そっか。じゃあ次はもっと鳴かせてやるよ」
嬉しくて喉を鳴らして笑えば、填められたって顔をして。
「今度はもう待ってやんねーから覚悟しとけ?」
おっさんの初めてをもらったことより。念願だったおっさんを抱けたことより。
おっさんが受け入れてくれて、こうして抱き合ってる今が、幸せだ。
ま、当然全部嬉しいけどな。
なんてったって、俺は単純だから。
好きなやつに触れて。好きなやつを抱けて。
今は、これ以上に望むものは何もない。
2008.12.22