その快感は誰の手で

 昼時、陽が煌々と照らす中。

 塀に腰掛けた男──ユーリは、真剣な面持ちで考えていた。

(どうしたもんか)

 ユーリの横で丸くなったラピードが、欠伸をひとつ。

 先日。ユーリはレイヴンと勝負をし、見事勝利を収めた。時々、二人はどちらが先に魔物を倒せるかの勝負を吹っ掛けては、敗者は勝者の願いを聞き入れる。そんな賭け事を密かに楽しんでいるのだが、今回見事勝者となったユーリは、レイヴンへの願い事を何にするかの思考に時間を費やしているというわけだ。

 退屈そうなラピードが、二度目の欠伸をする。

 前回の勝利の褒美は、とにかく腹を空かせていたのでレイヴン特製のショートケーキをホールで振舞ってもらった。前々回はレイヴンに勝ちを譲り、疲れた体を揉み解してやった。

 そうやって毎回、大したことない願いを言い合う。

 正直、勝者の権利なんて使わなくても、言葉にすれば大抵のことは叶ってしまう。だからこそ、こういう時でないと聞いてもらえない事を考えて、早数十分。ラピードが三度目の欠伸をした。

(アレん時もなぁ)

 ユーリは自分の膝を支えに頬杖をつき、恋人との情事を思い浮かべる。これまでも色んなことを頼んだが、して欲しい事を伝えれば頬を染めて、しかし従順に、レイヴンはユーリの欲望を聞き届けるのだ。何も無くとも、だ。

 脳内に鮮明に浮かび上がる、恋人の可愛く乱れる姿に危うく浸りそうになったところで、男達の話し声が耳に届きユーリは我に返る。

「そういやお前続いてんのか?」

「おう! 昨日なんて最高に可愛くてさぁ」

 ちらりと声のした方へ視線をやる。声の主はどうやら休憩中の騎士達のもので、ユーリがいるのに気付いているのかいないのか、声のボリュームを下げることなく会話が続く。

「俺の帰りが待てなくてってひとりでしててよぉ! 堪らなくて昨晩は盛っちまったぜ」

「くあー! 惚気かよ羨ましいなぁおい!」

 何を言い出すかと思えば、真っ昼間っから大声で猥談かよ……とユーリは呆れ顔を浮かべた。

(フレンが聞いたら卒倒しそうだな)

 思いながらも、何となく引っかかるものがあり、ユーリは再び思考する。

(そういや……レイヴンってひとりですんのか?)

 男なのだから、抜く事くらいはあるんだろうが。それ以上の……と考え始めてすぐ、下半身がぞわぞわするのを感じて止めた。気を抜くと顔がニヤけそうで、口を手で覆う。

「……よっし」

 とりあえず、願い事はこれに決まりだな、と塀から立ち上がり、ユーリはその場を後にする。日差しは未だ高い位置から降り注ぎ、じわりと暑い。起き上がったラピードがまるで溜息のようにワフ、と鳴いて、ユーリの後ろに続いた────。



       *



「てなわけで、おっさんがしてるところ見せてくれ」

「見せてくれって……おまえさん、正気?」

 宿の一室。床に向かい合って座るユーリとレイヴン。日は大分傾いたが、明かりを灯す必要など微塵もない程に、空も窓から差す光も明るい。

 真正面に見据えて真面目な顔して話すユーリに、唇を引き攣らせてレイヴンは笑う。

「なんだよ、いつもそれ以上の事してんだろ?」

「ばっ……か、それとはまた違うでしょうよ」

 じりじりと迫るユーリに追い詰められながら、背中にベッドが当たりレイヴンは逃げ場を無くす。止まった途端距離を詰められ、耳元で甘く囁かれれば、冷静な思考なんて出来なくなってしまうもので。

「な? 見せてくれって」

「ふ、ぅっ……」

 唇を噛み締めると、レイヴンが降参の一言を発する。

「物好き……」

 レイヴンは渋々手を伸ばし、荷袋から小さな瓶を取り出して横に置いた。腰に手を掛け、一拍置いてはぁと息を吐き出しながら、下着ごとズボンを下ろしていく。片足ずつ抜いていき、そっと端へと避ける。

 少しずつ、ありのままのレイヴンが露になっていく様に、既にユーリの下半身は熱を持ち始めていた。そのまま黙っていると、上着の釦を外していき、肌蹴た上半身からは鍛えられた筋肉の隆起と、淡い飾りと、ぬらりと光る魔導器が現れた。もじもじと局部を隠しながら、上目遣いでこちらを見る。

「ほ、んとに……見んの?」

「あぁ、勝利のごほーびなんだから楽しませてくれよ」

 満面の笑みで答えれば、レイヴンは諦めの溜息を吐き、隠された下肢の間、まだ下向きな自身にそろりと手を触れた。

「……っん」

 ぴくん、と先端が跳ねる。両の手の指を這わせて優しく包み込むと、ユーリの表情をちらりと確認した。変わらず期待の眼差しを向けるユーリに、再度諦めの表情を浮かべ、レイヴンは少しだけ足を開きゆるりと前後に手を動かした。

 指の感覚か、それとも俺の視線にか。

 レイヴンの手の中のそれはすぐに質量と硬度を増して、頭をもたげる。どう見ても男なのはわかっていても、普段の可愛さからはギャップすら感じそうな程の、自分と同じ赤黒い雄の象徴。僅かな時間で、あっという間に硬く、存在を主張する。

「……ふ、ぅ」

 紅潮した頬と上がる息。伏し目がちの睫毛から覗く翠の瞳は既に行為に酔っていた。反して手の動きは緩慢で、快楽を追っているとは到底思えない。

「なあ、それでイけんのか?」

 手淫のやり方は人それぞれだ。途中で口出しするのも野暮かと思いつつ、ユーリはつい尋ねてしまった。

 レイヴンの眉が小さく跳ねる。ユーリの質問に答えようとして口篭り、小さい喘ぎと吐息だけが漏れ出た。

「……け、ないわよ……」

 か細い声が鼻から抜ける。

「これじゃ、いけない、の……」

 これじゃイけない。ユーリはそれを、“こんな緩い刺激じゃイけない”ということだと解釈し、「だったら」と指摘しようとした声の上にレイヴンの声が重なる。

「前だけじゃ、イけなくなっちゃったのよ……」

「……え?」

 ふしゅう、と。湯気でも立ちそうに沸騰して、真っ赤になるレイヴンの顔をまじまじと眺めた。

「おまえさんの、せいだからね……」

 追い討ちをかけるように続く言葉に、米粒程の小さな罪悪感の後に、圧倒的優越感がユーリを襲う。にやけて釣り上がる口の端から「ま、じ……かよ」と声が漏れ、手で覆い隠した。 

 いやいやいや、それは反則技だろう。レイヴン程では無いが、つられて赤面した顔が熱い。ついでに息子の方も、今ので完全に熱を帯びてしまった。服の下から窮屈そうに布を押し上げてくる。

「ね、……やっぱり、恥ずかしいんだけど……」

 まだ最後の一線を越える踏ん切りが付かず、躊躇いで手が止まる。この後何をしようとしているのかがユーリにもわかり、ごくりと生唾を飲み込んだ。前でイけない。……つまり、そういうことだ。

「こっからだろ? 頑張れよおっさん」

 促すように一声かければ、レイヴンの喉がぐっと鳴る。柔く扱いていた自身から手を放すと、傍らに置いた瓶を手に取り蓋を開ける。潤滑剤であろう中身を傾けてとぷとぷと左の手の平に注ぐと、ベッドに背を預け、瞼をギュッと閉じ足を大きく開いた。濡らしたその手を、中心で主張する屹立を通り過ぎ、寂しそうに窄む蕾へと運ぶ。

「っ……」

 指先が触れる。液を塗り込むように優しく入り口を撫で、こういう時の為かと思いたくなる、整えられた中指の爪の先を窪みへとつぷりと押し込んだ。

 指先数センチがつぷつぷと出たり入ったりを繰り返し、回数を増す毎に段々と深く潜っていく。何度も出入りした中指に添えられた薬指が、一緒に中へと消え、拡げるように動き出した。ユーリはそれを食い入るように見つめる。

「……っふ、ぅ、……ん」

 いよいよ呼気の合間に甘い声が混ざり出す。薄く開かれた瞳が熱で潤み色っぽさを演出している。

「ん、ふ、っ……、ぅ」

 第二関節まで埋もれる頃には恥じらいも薄れてきたのか、少しずつ腰が突き出すように動き出す。どうにも抑えられない声を、空いた手の甲を口に添えて阻んだ。更に深く指を押し込み引けば、潤滑剤の粘る音が響く。

「んんっ、ぁ……!」

 再度飲み込まれた指によって鳴る水音を、レイヴンの声が掻き消す。イイところを掠めたんだろうか。眉根を寄せて、的確に中を擦るような動きに変わる。いつもは俺が触る前立腺を、レイヴンが自分で触って俺の前で感じている様を見るのは、新鮮であり、複雑でもあり。同時に気になって仕方ない疑問がユーリの頭に浮かんだ。

「レイヴン」

「ひ! ぁ……な、に」

 夢中になって快感を貪る体が、名前ひとつで跳ねる。俺が気になって仕方ない疑問──レイヴンがそんなになるほど夢中になっているのは一体何なのか。そいつは、誰なのか。

「それ……俺の事考えながらしてんの?」

「へっ…………」

 ユーリの問いに、間の抜けた声を上げレイヴンが硬直する。動きの止まった指を、一拍置いてきゅうぅと蕾が締め付ける。翠を透かして潤む瞳と視線がかち合うと、レイヴンの浅黒い肌は一層赤の濃度を増し、バッと音がする程に慌てて視線を逸らされた。

「……なんだぁ? その反応は」

 予想外の反応かつ何に照れているのかがわからず、ユーリは呆気にとられる。

「青年がっ……変なこと言うからでしょうよ!」

「変って、何考えながらしてんのか聞いただけだろ」

「あの、ねぇ……」

 変なことも何も……低俗な言い方をすれば、何をオカズに慰めてんのかを聞いただけで。あまりの動揺にどんな恥ずかしい想像してんだよ、と喉まで出かかったユーリの言葉は、「せ、いねん以外で、するわけないでしょうよ……」とレイヴンの口からぼそりと発された声で腹の奥底へと消えた。

「………………。ふはっ……はは、はははっ」

 ユーリはレイヴンの言葉を咀嚼すると、息を漏らした後、満足気に顔を笑みの形に変え声を大にして笑った。

 自分が触れていない間も、恋人は自分の事を考えている。自分で頭をいっぱいにして、体を震わせているなんて。

「っは、最高だな」

「笑わないでよ、こっちは恥ずかしいってのに……」

「喜んでんだよ」

 口を尖らせるレイヴンの頭をくしゃくしゃと撫で、ギュッと閉じた瞼に柔い口付けを落とす。そのまま横へと唇をずらし、ユーリはお陰でもう一つ浮かんだ疑問を耳元で問い掛ける。

「な、あんたの中の俺は、今あんたにどんな事してんだ?」

「っっ……!!」

 その問いに反応してレイヴンの肩が跳ねる。トン、と臍の下辺りを人差し指で叩けば、肚が収縮した気がした。

「教えてくれよ、レイヴン。ちゃんと見ててやっから」

 続け様に言葉を放てば、びくびくと中と外が揺れる。

「……俺様が、見せて、やってんだってば」

「はは、そうだったな」

 声を震わせながらも気丈に振る舞うレイヴンの頬に軽く口付けると、ユーリはまた顔を離して吟味するように視線をレイヴンの全身へと這わせた。──暫く触れていないが硬度を保ったままとろとろと透明な蜜を零す屹立。動きを止めている間も二本の指をはくはくと食んでいる尻の蕾。そして、レイヴンの右手がおずおずと運ばれる、胸元で愛らしく主張する淡色果実。

「ユーリは……今、ここ……触って、る」

 指の腹で、胸に実る果実の根元から先端にかけてを摘む。既に芯を持った小さな粒をきゅっと挟んで、強めに引いたり力を抜いたり、強弱をつけながら刺激していく。勿論その間もぬちぬちと潤滑液の水音をたてながら、後孔への愛撫の手も止めずに。

「あっ……ここ、気持ちぃ……っはぁ」

 ユーリは見ているだけなのに、息が荒くなっている自分に気付く。名も知らない兵士が盛ってしまっていたのも頷けるなと、昼間の事を思い出した。だからってあんな所で大声で言うことではないが、確かに恋人のこんな姿を目にしたら自慢も惚気もしたくなるってもんだ。

「んっ、ふ、ぅ……ゆー、り……っあ、ん」

 親指と人差し指に力を込める度に尻が締まり、甘い声が響く。更なる刺激を求めて人差し指の爪で先端を引っ掻くようにカリカリと弄れば、全身を震わせながら更に嬌声を上げて。

 可愛いな、とか、エロいな、とか。他にもあれこれ、つい何度も声を掛けそうになり、ユーリはレイヴンに問う。

「俺喋ってた方がいい? それとも黙って見てた方がいいか?」

 それを聞いたレイヴンが、喘ぎの合間に蕩けた声で「……名前、呼んで」と強請るので、ユーリは四文字にそれら全ての感情を乗せて、目の前の男の名を呼ぶ。

「レイヴン」

「〜〜っっっ」

 たった一言。さっきだって呼んだはずのその名前に、レイヴンは大きく体を跳ねさせて。

「っゆぅ、り、イ、くっ、ぅぅ」

 振動に合わせて後孔の指を激しく抜き差しして高みへと追い込んでいく。

「レイヴン」

「ぁ、も、ぉ……らめっ、〜〜んんんっ」

 愛おしい者の名をもう一度口にすれば、背を反らせ、中心で天を仰ぐレイヴンの熱が爆ぜて、白く濁った液を吐き出した。

「んぅ、っぁ…………っはぁ、っはぁ」

 びゅるびゅると放たれた白濁液が、音を立て床を汚していく。ぼうっとそれを眺めながら、レイヴンは荒い呼吸を繰り返す。蕾が小刻みに痙攣して、動きを止めた指を締め付けている。

 何度目かの呼吸のあと、レイヴンはとろんとした視線を床からゆっくりとユーリへと移す。中心部で服を押し上げて存在を主張しているユーリのそれに目を止めて、息を呑んで喉仏がこくりと動くのがわかった。

「ふ、ぅ……っあ、は、ぁ……っ」

 余韻に震える体から指を抜き去ると、栓を失った穴が魚のように空気を取り込む。それはとても物欲しそうに見えて、ユーリはくすりと笑った。

 あんた今、自分がどんな顔してるかわかるか? そう問いかけたら、きっと泣きそうなくらい恥ずかしがるだろうな。そんなレイヴンも堪らなく可愛い。でも今はそれよりも、既に顔から火が出る程に恥ずかしいことをやってのけたレイヴンに、まずは「ありがとな」と感謝の言葉を掛けてやる。

 蕩けた瞳をきょとんとさせているレイヴンの頬を撫でると、反射的に自ら擦り付けてきた。その姿は猫を連想させる。髭が少しチクチクするが。

 親指で大きめだが薄い唇をなぞると、ぶるぶると体を揺らして肺から情欲を含む息を吐く。

「まだ足りないなら手貸すか?」

 息つく唇の隙間から歯を押し退けて指を差し込む。舌先を弄べば、粘着音をたて溢れた唾液が口の端から零れた。

「んぇ、ぁ……っ」

 指の腹で舌の中心を擦るとくぐもった喘ぎを上げて、八の字眉に上目遣いで見つめられる。くちくちと口内を蹂躙した後指を抜こうとすると、レイヴンは口を窄めてちゅうと吸い付いてきた。

「ん、ちゅ……ぅふ……ぅ……っ」

「っ……」

 これは計算のうちなのか、それとも天性のもんなのか。……どちらにせよ、ユーリはまんまと煽られてしまうわけだが。レイヴンは吸い付いた指を舌で転がし、滲み出るユーリの汗の味を存分に堪能すると、ちゅぽっと口を離した。

「足りないから……さ」

 頬に触れる手に、重ねるようにレイヴンの手が添えられ、先刻までレイヴンの頭の中の俺が触っていたであろう胸の飾りへと導かれる。

「……触って?」

 甘えるような猫なで声で言われれば、ギュンと音がしそうな程に衣服の中でユーリの息子が張り詰める。

「……なんでこんな可愛いんだよ」

 ユーリはレイヴンを目の前に独り言ちる。さすがに苦しくて、前を寛げ己の熱塊を衣服という仕切りから解放してやると、それはぶるりと姿を現した。血管が浮き上がり硬くなったユーリの逸物に、レイヴンは無意識に視線を集中させてしまう。

 ユーリは片手でレイヴンの胸の突起を擦りながら、もう片方の手でレイヴンの視線が釘付けになっている、昂る己を扱きだす。

「っは……。レーイヴン。手、止まってんぞ」

「ひっ、ぁ……ぅぅ、ん……?」

 指摘してやれば、今はユーリが触ってくれているというのに、何で? と不思議そうにこちらを見る。ユーリは顎をしゃくりレイヴンの秘部を指し示す。

「中、自分で気持ちよくしてろよ」

 空っぽになって物欲しそうに疼いている後孔に目線を送ると、暫しの間の後言われた事を理解して、蕩けていた目を見開いた。悔しそうに、かつ恥ずかしそうに唇を噛み締めると、レイヴンは再び尻の蕾へとそろそろと指を差し入れる。先の解しで緩んだそこはすんなりと指を飲み込んでいき、あっという間に二本の指は半分以上見えなくなった。

「ふっ、ぅ……ぅん」

 指が中に潜り込むのを見送ると、ユーリは胸の飾りに目を向ける。逞しい胸筋に、ケーキに乗った苺を思わせる可愛らしい乳首のギャップが映える。赤く染まる先端を摘みながら引っ張れば甲高い声が上がった。

「あっ! ひ、あっ……!」

 指を擦り合わせるように弄れば、表面の柔らかさに反して硬くなった芯がコリコリと鳴る。もたらされる刺激に、達して萎えた自身がレイヴンの中心でまた熱を持ち始めた。

「やっ、だ、めっ、それっ……ぁうぅ」

 自分から強請ったくせに、与えられる快感から逃げるようにして背中を丸めつつも、後ろに飲み込ませた指はしっかり抽挿を繰り返して己を高めていく。そんなレイヴンの痴態に触発され、ユーリも自身を扱く手の速度を増した。

「っは……レイヴン……。中、今どうしてんだ……」

「んっ、あっ、な、か……?」

 レイヴンの妄想の中の俺は、今はどうしているのか。聞かれるのはきっと恥ずかしいだろう。

「それも、俺の指想像してんの?」

「っっ、言わせ、ない、で……っ」

 やはり、羞恥にふいっと目を逸らされてしまう。けれど今はレイヴンが何を思い、考え、求めながら絶頂へと導くのかが……

「悪いな、聞きてぇんだ」

 胸筋を揉み上げて、乳輪を反時計回りに人差し指でなぞる。掠める程度の緩い刺激とは逆に、後ろを弄るレイヴンの指は勢いを増す。

「あっ、はぁぁ、ぁん、ゆーり、ゆー、り」

 合わせてタガが外れ喘ぎも徐々に大きくなっていく。中心の雄もすっかり上を向き、乳首と同じく硬く芯を持ち先端から蜜を滴らせていた。火照った顔を伝う汗が、一粒顎から落ちる。

「なかっ、ぁ……っゆーりの、ゆび、擦られっ、んの……きもち、ぃ……」

「へぇ……俺にどうされてんの」

「は、ぁっ……んんっ、いい、とこ、ぉ……指、あたって……」

 ぐちぐちと粘着質な水音を響かせては、指が見え隠れする。

「ゆーり、ぁっ、ここ、とんとんっ、て……ふ、ぁ、きもち、いいんだろ、ってぇ……」

「! それって……」

 深掘りすれば、少しずつ暴かれる妄想の中の俺。レイヴンが喘ぎ混じりに話すそれは妄想というよりも、いつも俺がレイヴンにしていることの再現で。

「なるほど、な……」

 台詞までいつもの俺ときたもんだから、何だか無性に照れくさくて誤魔化すようにして己を扱く手に力を入れる。刺激なんて自分の手のひらの摩擦だけだというのに、はやくも視界からの情報だけで、下半身がじんわりと痺れてくる。

 熱の篭った息を吐いて、鈴口からは先走りを垂らし、ユーリは限界の手前まで自らを追い込む。レイヴンと同じく、自分の手の感覚ではなく、目の前の男の甘い声や息、潤む瞳や唇。染まる頬に、滴る汗。五感から得る恋人の姿や記憶を脳内で反芻しながら、はっ、はっと短い呼吸を繰り返す。

「はぁっ……あんたも、っイけそうか」

「う、ん……っ、ゆーり、いく、っん」

 快感を逃がし屈めていた体は見せつけるように徐々に開かれていき、尖った果実と逆側の胸でドクドクと脈打つ魔導器が、ユーリの眼前に突き出される。

「い、くっ、から……見てて……っ」

「あぁ……っ、ちゃんと、見てるよ」

 少しでも奥へ。付け根までぐりぐりと指を潜り込ませると、レイヴンの喉から一際甲高い声が上がり、背を反らし爪先がピンと張る。

「んぁぁっっ! っ! っあ、っあ……!」

 背後のベッドに後頭部を乗り上げる程に反り、レイヴンは二度目の精を放った。

「ひっ、ぅ、……っふ……!」

 びくびくと震え、数度にわたり屹立から放たれた白濁は、体を弓なりに反らせたせいで自身の腹や胸にまでかかっていた。

「っは……っく……!」

 追うようにして、ユーリも先端から熱い粘液を吐き出した。溜めこんでいた熱は、レイヴンの締まった太腿を白く汚していく。

「んっ、ふぅっ……あっ……つぃ……」

 指を食いちぎりそうに、射精のリズムに合わせて尻がギュウギュウとレイヴンの指を締め付けている。精液がかかることにすら、快感を拾っているようだった。

「はっ……っはぁ……はぁ」

 ユーリは出したばかりだというのに、萎えるどころかまだ熱が肚の奥底で渦巻いて、興奮が収まらない。手を離しても重力に逆らったままのそれを見て、レイヴンが袖をくいっと引く。

「……ね。も、ごほーび……十分でしょ」

 汗と白濁液の混ざる水滴が、太腿から尻に伝う。レイヴンが指を抜き去ると、小さく開いたままの下の口が、早くここに来いと誘っているように見えた。

「……そーだな」

 額の汗を拭う。腰帯を解き上着に手を掛け、しなやかな上半身を曝け出す。ギラギラとした熱視線を感じながら、ユーリは髪を掻き上げるとレイヴンに迫った。

「ゆー、り」

 薄暗くなり始めた部屋で、二人は濃厚な口付けを交わすと、抱き合って互いの熱を貪る。本物のユーリの指に触れられて、レイヴンの蕾が悦びに震えた。舌を絡め合いながら、解された穴を更に拡げるようにして、ユーリの指が腸壁を擦っていく。

「んふぁぁっ、こ、れ……ゆーり、の……っ」


 褒美の時間は十分に満喫した。

 とすればあとはもう────


「こっからは、俺が良くしてやるからな」


 指を抜いて、自身を宛てがう。

 熱い猛りは、どうやら収まるまでにまだ暫くかかりそうだ────。






2022.7.22

リクエスト「レイヴンの自慰を見る話」