「メリークリスマスでござる!」
聞き慣れた声のする方に振り向くと、人差し指を立てて印を結ぶポーズをしたシュウメイが視界に映る。と同時に、オルティガの表情は怪訝に曇った。
「えっ……なに、これ」
クリスマスカラーとも言えなくないシュウメイの緑混じりの服の上を、アクセサリーのように散りばめられた電飾が、キラキラと輝いていた。
「オルティガ殿にクリスマスプレゼントでござるよ」
電飾が気になり過ぎて見逃してしまいそうだが、首を一周する大きな紐が、リボン状に結ばれて顎下で揺れている。
「プレ……、ゼント……?」
そのリボンの揺れに合わせて、グラグラと目眩がしそうになる。そんな事などお構い無しに、満面の笑みで手を広げたシュウメイに、オルティガはただただ困惑するしか出来なかった。
「オルティガ殿が我に言ったのだ」
「オレが?」
「うむ。故に、その願いを叶えるに至った」
記憶を遡る。過去のオレは、一体全体シュウメイに何を言ったんだ?
記憶の蓋をひとつひとつ開けていくオルティガの目の前で、何故かシュウメイの頬がみるみる火照っていく。
「………………え。嘘だろ」
その顔と、今まさに開いていく記憶が、一致する。
「まさか」
シュウメイが、コクンと頷く。
「プレゼントは…………我が欲しいと言ったでござるよ」
「……っっ!」
馬鹿じゃないの?!
オルティガは喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。
「オルティガ殿は、何か欲しい物はないでござるか?」
「んー、別にないかな」
オルティガにとって、クリスマスは特別な行事ではない。欲しい物なんて、望めばいつだって手に入ったから。
「な、何でもいいでござるよ?」
こんな話を切り出すくらいだ。シュウメイは何かをくれるつもりなのだろうが、残念ながらこれといって何も浮かんでこない。
「何でも、ねえ」
それに、スター団という居場所と宝がある今、これ以上望む物なんて、オレには…………。
顎に手を当てて暫し考えて、オルティガはふと思いついた、ひとつの答えを口にした。
「そうだね……強いて言えば」
────オマエ、かな。
「いや、そんなの、本気にするなんて思わないだろ?!」
オルティガは声を荒らげると大きく溜息を吐いて、項垂れた。
確かに、言った。言っていた。けれどそんなのはその場のノリだ。
それを真に受けて、こんな……自らをプレゼントなどと。
「……やっぱ馬鹿だろ」
オルティガは天然過ぎるシュウメイに向けた複雑な気持ちを、聞こえないように地面に向けて小さく吐き出した。
正直、嬉しくないわけじゃない。
……むしろ、逆だ。
ただ、あんな言葉ひとつで、簡単に自分を差し出すようなヤツだ。他の誰かに言われても、同じ事をするのではないだろうか。
それが凄く、モヤモヤした。
「オマエは、欲しいって言われたら誰にでも……」
顔を上げると、シュウメイの海のような透き通った瞳が、ゆらゆら揺れているのが見えた。
「シュ……」
「受け取ってもらえぬのか……?」
そして寂しそうに呟かれたその言葉で、今の今まであれこれ考えていた事も、ついでに……理性も。
全てが────呆気なく消し飛んだ。
「受け取らないなんて言ってないだろ!」
オルティガはシュウメイと距離を詰めると、首に巻かれたリボンに指を掛けて、自分より上にあるシュウメイの顔を引き寄せた。
よろけるようにして前屈みになったシュウメイの長い睫毛が、触れそうな程近くなる。
お返しだと言わんばかりに、オルティガは驚いて見開かれた、シュウメイの潤む瞳の上に、柔い口付けを落として……
「……オレ以外には渡すなよ」
誰にも聞かせた事の無い、見た目にそぐわぬ低い声でそう言い放った。
シュウメイは火がついたように頬を真っ赤に彩って。
引き寄せられるまま、オルティガの首に腕を回し「オルティガ殿だけでござるよ」と耳元で囁いては微笑むのだった。
2022.12.25
Xmas♡オルシュウ