青い猫と赤毛

 猫の尻尾……いや、猫の俺からしたら猫じゃらしを思わせる、動く度揺れる赤い髪がトレードマークなスナイパー。そんな彼にどうやら俺は惚れちゃったみたいで。

 何するにも興味なさそうな素振りだし、無愛想だし。綺麗な顔立ちが台無しって感じなんだけど。……本能的に引き寄せられる赤に釣られて目を追わせる日々を続けてたら、見えなかったものも見えるようになってくるわけでさ。

 ガトリーや、ヨファ相手にだとさらっと微笑んでたり、すんだよなぁ~……。なーんだ可愛い顔できんじゃん。なんて思ってられたのはほんの一瞬。湧いてくる感情はときめきなんかじゃない。醜い、嫉妬。

「あ~ベオクの、しかも男に嫉妬なんて……俺相当キてんのかも」

 苦笑しながらも日に日に嫉妬心は募り、次第にそれは独占欲やら加虐欲に変化していき。気付いた頃には「抱きたい」なんて思うまでになっていて。

 戦闘後の昂ぶってる時なんて激しい衝動に駆られるけど、な。一応我慢してたわけで。本能のままに、なんてマズいだろ?

 なのに、俺の気も知らず。

 暗がりの、傭兵団から離れた木々の端。足音のする方を振り向いて驚く。

 上気した頬はほんのり桜色に染まり、いつも細められてる目が、今は閉じてしまうんじゃないかってくらいに細い、赤毛の男。さっきまで飲んでたのが窺える。

「あれ、シノンじゃん?」

 まるで何事もないように振る舞うけど、内心はすっげードキドキしてる。この艶っぽさ、犯罪だろ……。

「……んだよ、先客がいやがんのか……」

 チッと舌打ちを決め込み、不機嫌そうな顔をちらつかせる。

 距離を置くために、ここなら会わないだろう……ってまあ元々外のが落ち着くのもあるけど、わざわざ月明かりしか届かない薄暗い場所を選んだのに。運命的? なんてどこかの誰かサンみたいなことを思っちまう。

「悪いねー。そんな不機嫌そうな顔すんなよ? 邪魔者は退くからさ」

 けどこのままここに留まってたら、いくら我慢しようと俺の息子が暴走しかねない。それに、機嫌を損ねるのも本意じゃないし。なんて言い聞かせて立ち上がる。

「じゃ、おやすみ、シノ……?!」

 ってカッコ良く自分を納得させて歩き出した筈が。後ろに引き戻されて、間近に、シノンのニオイ。

「へ……?! な、何?」

 動揺隠せず、情けない裏声を晒してしまう。

「ナニ、逃げてんだぁ? テメェは……」

「に、逃げるっておまえ……人聞き悪いなぁ」

 肩を掴まれ、引き寄せられて。耳の近くに酒臭い吐息がかかる。

「……何、酔っちゃってんの?」

 振り向き様に顔を覗き込む。一見、そこまで酷く酔ってるようには見えない。

「ハんっ、俺様があの程度で酔うわけねぇだろ」

 どの程度なのかは相席してない俺にはわかんないけど、呂律も回ってる。確かに泥酔してるわけじゃなさそうだ。なさそう、なんだけど……

「じゃあ、何かあった?」

 例えばアイクと、とか……浮かんだけどやめた。当たってたらマジで機嫌を損ねそうで。

「……」

 図星らしく不機嫌、というよりふてくされてる感じに俯くシノン。ちょっと、待ってくれ……これは、きつい。

 桜色に染まる頬や赤く色付く唇から、本人に自覚アリかナシかは知らないが、異常なまでの色気が放たれていて。つい舌なめずりをしそうなくらい、シノンが欲しくなって。

 ……欲に任せて、襲いたくなった。

「なぁ。今だけ、イヤな気分忘れさせてやろうか?」

「……は? 何……、っ」

 気付いたらもう口付けしてた。抱き締めて、一番近い木に背中を押し付けて。

「んふっ……」

 鼻から抜ける甘い息使いに興奮して。勢い任せで貪るように奪いたいところを、翻弄するように、優しく。

「は、んふぅ、なせ……っ」

 息継ぎに離した唇からは吐息に混ざり拒否の言葉。

 だけどもう遅い。シノンは知らないだろうけど、今までだってずっと耐えていたんだから。一度触れてしまえば、止まるわけがない。

「優しくしてあげるからさ、大人しくしててな」

 首筋に口付けを落としながら衣服を乱そうとしたけど、両手に阻まれて。

「何が優しくだ……っ、離せって言って……」

「大人しくしてなきゃだめだろ?」

 力いっぱい抵抗するシノンの耳を一舐めして囁けば、ゾクゾクと喉を反らせて色っぽい声をあげる。

「ゃっ、あ……!」

「うっわ、今の反則」

 たった一声なのに、こっちまでゾクゾクしちまった。感度良すぎだろ。

「テ、メェ……」

 眉間に深く皺を寄せて睨んでくるけど、それすらも今じゃ可愛く見える。ついつい顔がにやけるのを抑えられない。

 そんな俺の表情に気が触れたのか、腹の底から絞り出したようにドスの利いた声を吐き出すシノン。

「この……っ、半獣野郎……っ!」

「……」

 わかってる。

 わざと言ってるのはわかってる、つもりなんだけど。けどその一言が、今度は俺の気に触れて。

「……な~シノン? 俺にはね? ライ、って名前があんのよ」

 怒ってるわけじゃないけどな?寛大な俺だって言われたくない事のひとつやふたつある。

「んなこと、知るか……っひっ、ぁ、っぁあっ」

 だから、わざと吐息混じりに耳元で喋ってやる。それだけでビクビクと震えるから面白い。

「シノン、聞いてる?」

 鼓膜まで直に振動が行くように奥に向けて声を送れば、さっきまで突き放すようにしていた手が、縋るように俺の服を掴む。

その反応が愛らしいから許してやってもいいけど、逆にもっと意地悪したくなったりして。

 あれ? 俺ってそういうシュミだったっけ?

「話聞かないなんて悪い子だね~シノンはさぁ」

「っひぁ、しゃべ、……なっ! っぅあぁぁ」

 耳攻めに酔いしれて力の抜けた体から少しずつ衣服をはだけさせれば覗く、ピンと立った二つの突起。

耳が弱いのは一目瞭然だけど、まさかこれだけでここまで反応するとは。

「シノンが聞いてくんないからさ?」

「っはっ、んぅ、聞いて、っから……しゃべんな……っ!」

 耐えられないって訴えるように漸く質問に答えてくれる。この様子じゃ、触れてないけど、下もスゴいんだろうな。想像しただけで益々興奮。

「じゃあ、わかるよな? 俺の名前」

「……っの、やろ……っ」

 苦しそうに息を荒げて、顔を真っ赤にして。時折ぶるっと体を震わせて。酒と煽りで昂ぶる体は直接的な刺激が欲しそうだけど、まだあげない。

「わかんないならまた教えてやるよ?」

 もう一度耳元で囁くぞ、って意味を込めて言えば、悔しそうに目を閉じて。

「テメェの名前なんて……イチイチ聞かなくても、知ってんだよ……」

「それは光栄」

 知ってるってことを伝えるだけでも耳まで真っ赤に染めて。名前呼ばせたらどんだけ反応してくれんだろうな、って次を期待したってしょうがない。

「なら、呼んでよ?」

 言葉と同時にぷくりと膨らむ胸の尖りをこねてやる。

「ぅっ、ぁああっ!」

 敏感な体が、漸く与えられた刺激に跳ねる。目を見開いて、快感に震える姿は、堪らなく……そそる。

「ほーら」

 指先でグリグリ押し潰してやれば涙目になりながら口からボロボロと喘ぎが漏れる。

「ひぁぁぁ、っぁ、やっ、……ぃっ」

「ん?」

「も、い、加減に……っぁぁっ!」

 拒否する言葉や、悪態を吐こうとしたら強く抓るように刺激を与え、強制的に言葉を切る。何度も何度も繰り返してやれば意識下か無意識下か、それらの言葉は形を潜めて。

「んぁ、ぁぁ、ぃ、ら、い……ぁぁっ」

 ポロリと零すかのように。喘ぎの中に俺の名前が、混じる。

「……シノン、いい子」

「……ぁ、ふ」

 嬉しくなって、口付けて。

 頭を撫でてやったらさすがに振り払われたけど、解放してやろうと下肢に伸ばした手は止められることはなくて。

「ココ、漏らしたみたいだ」

 服の上からそっと触れただけで、湿り気どころか水滴が付いてしまうんじゃないかってそこは、一度イったくらいじゃ済まないだろって濡れようで。

「何回イっちゃった?」

「や、ぁ……」

 下着と共にズボンを引きずり下ろせばドロリと滴り落ちる白濁の群れ。

「すごいね~こんなに出したんだ」

 月明かりにヌラヌラと照るシノンの雄を見ただけでも、はちきれんばかりに勃ってしまうというのに。後ろまで伝ってもまだ有り余る精液が垂れ、糸を引きながら落ちる光景は壮絶な攻撃力を誇っていて。

 気を抜けばこちらがイってしまいそうな……。

「あれでこれだけイくってことはさ、痛いの好きなんだシノンは」

「!」

 からかうように言ってやるとビクリと肩を弾ませて。少し怯えたように俺を見る瞳が揺らぐから。

「っ! ごめんごめん。冗談だって! もう痛くしないから、な?」

「当たり、前、だ……!」

 先程まで快感に耐えていたせいか、安堵したせいか。

 俺がそう言うとほっと肩から力が抜け、その瞬間にずるずると体が滑り、しゃがみ込むシノン。

「っ……加減も、わかんねえのか、よ……ラグズっつーのは」

 手で目を覆って、俺から視線を外して。独り言のように。

 でも聞こえる大きさで吐かれた言葉はちゃっかり俺達のことを「ラグズ」って呼んでたりして。

「ごめんな? ちゃんと優しくしてやるからさ、怒るなよ」

 気持ち良さそうだったから調子乗った、ってことは敢えて伏せて。そもそもして欲しいなんて言ってねえ! って突っ込まれるかなって思ったんだけど。

「痛かった?」

 赤く腫れる乳首に舌を這わせる。優しく、詫びるように。

「ぁぁあぁ! やっ、な、ん……」

 なのに、一際甲高い声をあげるから。驚いて口を離す。

「え、何……?」

「テメェの……っ、舌、変……っ」

 下肢の間で頭をもたげた雄をひくつかせながら、途切れ途切れの言葉を紡ぐ。

「変、って。ああ、ザラつくのか。俺、猫だからね」

「っ! ……んな、っ」

 ざらつく猫の舌。

 待ち構えていたであろう刺激とはかけ離れた、舐めればざらりと音のするその舌に、シノンは翻弄されるしかなくて。

「ゃっ、ぁぁア、ァ、ぁぁっ」

 がむしゃらに俺の髪を掴んで、未知の刺激に鳴く。

「も、ゃ、ァぁ、ひ、ぃァ……っっ」

 堪えるように一度グッと力を入れて髪を引っ張ったと思ったら、次の瞬間にはぶるぶる震えてシノンの雄から白濁が放たれる。

「またイっちゃったね」

 腹に撒かれた粘つく白濁液を掬い取り、舐めとる。イった余韻か、なぞる指の動きにすら体を震わす。

「舐められるの気持ち良かった? コッチもしてあげようか」

 意識が朦朧としていたのだろうか。指さす方を見て、少し遅れてからハッと我に返ったように首を振る。

赤い顔して、瞳を潤ませて。

 さっきみたく本気で嫌がってるわけじゃないのは見て取れるから。躊躇いなくシノンの雄の先端を舌で捕らえる。

「んぁああ、ぁ、も、むり、んんぅ」

 強すぎる快楽から逃げるように腰をくねらせるが、イヤラシイだけで。下から上に、毛繕いのように舐め上げれば腰を前に突き出しながら高く鳴いて。

「ゃ、や、ひ、は、ぁ、ぁっ」

 裏筋をざらりと攻め立ててやればとろりと透明な液体が溢れ出す。じゅるじゅると音を立てながらその先走りを吸い出して。

 先端の窪みに舌先を差し込むようにして舐めてやれば、一層高い声が。

「ひぁぁぁあぁァアっ!?」

 ……上がったと同時に。

「……シノン……?」

 ガクン、と首がうなだれて前倒しになるシノン。

「え……もしかして、飛んじゃった?」

 酒も入ってるし、何度もイったし。強烈な刺激に……シノンは意識を手放した、らしい。

「まじ?」

 この場合まずシノンの心配が第一なんだろうけど、ていうか心配してやれよって感じなんだけど。……俺の意識は、完全に自分自身に向いてしまっていて。

「これは……テメェで処理しろってか?」

 張り詰めた自らの股間を眺めながら苦笑する。

 そこまでは許してもらえないよなー、って最初から思ってはいたけれど、いざこうなると……かなりガッカリだ。

「うん、まあね、仕方ないよな」

 落胆して溜め息吐いて、更にはあまりの情けなさに止まらない独り言。

 仕方ない。とわかっているが、切ない。……切なすぎる。が、いくら何でも、流石にこの状態でヤっちまう程終わってはいない。

「……仕方ない、仕方ないんだ……」

 言い聞かせるように何度も何度も何度も呟いて、必死に自らを鎮める。そんなどうしようもない自分に更に切なさが込み上げた。

 ────しばらくして、やっと元の鞘に収まった自身に僅かながら謝罪を浮かべ、漸くシノンの汚れた体を拭ってやる。酒の力を借りてぐっすりと眠っているが時折ひくつく体を見ると、やっと鎮めたというのに息子がまた起き上がりそうになってしまう。

 落ち着け。落ち着くんだ俺……!

 寝顔ですら眉間にシワを寄せている不機嫌なシノンを、気持ち半泣き状態で部屋に運び、無事1人また元の月明かりの差し込む薄暗い場所に戻って。

「……はぁ……。でも、シノン可愛かったよなぁ」

 先程のシノンを思い出しながら、闇の中で静かに1人、自己処理したのは……

 最早、言うまでもない。







2008.8.23