蝋燭の灯る夜に

 チチチ、と虫の声。遠くにはぼんやり月がある。雲一つない闇だから、星も相当見える筈だ。

 側には温かい光。白い塔の先が赤く揺らめく、蝋燭が放つ淡い光。微弱な空気の振動も拾って左右に揺れ、その都度自分の影もふらついて。

「っ……ふ……ぅ」

 そんな風に壁や床に映る影を眺めながら、後ろに手を付き座る俺。

「ハ、ふ……」

「っ、イイな、それ」

「黙ってろ……」

 開く足の間には、蝋燭に灯る赤より鮮明な赤色を放つ髪束の────シノンが見える。

 はだけた下肢で存在を主張する俺自身を、舐めたり、くわえたり。鼻から抜ける息がとてもいやらしい。

 集中力が切れると、途端に羞恥心に駆られるんだろう。ピクリと眉を動かして目を反らす。

 怒ってばかりで照れとは無縁そうな顔しておきながら、ちょっとからかうとすぐ恥ずかしがるギャップが俺としては堪らない。そうやって視界から得られる興奮材料も手伝って、シノンの奉仕に吐精する。

「あー……イク」

「っん、んぅ……っぅ」

 俺をくわえた口腔内に躊躇いなく放つと、苦しそうな呻きを上げるが、プライドからなのか、押さえつけているわけじゃないのに離さず飲み込もうとしてくれる。

「……ン、っく」

 喉仏を揺らし通過していく自分の排出物に、異様に興奮する。あのシノンが自主的にしてくれるってことが更に後押し。

「っは、たまらないな、このサービス」

「ケッ……後で高く付くから覚えとけよ」

 端から零れた、唾液か精液かわからない混じり物を手の甲で拭いながら、シノンは眉を寄せつつも、決して不機嫌ではない表情を浮かべた。

 ────事の発端は、俺の目。

 鳥翼族の俺は、夜目が全く効かず、夕刻を過ぎるとほぼ視界がきかなくなる。千里眼なんて嘘のよう。いくら気配はわかっても、戦闘では致命的。

 だから、夜間での性行為なんていくら月が綺麗に見えようが些細なもので……俺の視力は壊滅的だ。愛おしいシノンの顔を認識することも難しい。そのためにシノンを抱く時はいつも夕刻までの間ってわけ。

 ……と、何でかそんな話をしていたら、シノンが乗り気になった。

 夜なら主導権が握れる、とでも考えたのか。されてばかりは気に食わない、シノンのことだからそんな感情があったに違いない。

「抱きたいんだけどな、何せ全然見えないからたまにはシノンがリードしてくれよ」

 この言葉を幕開けに、今に至るわけだ────。

「シノン、上乗れよ」

 付いた後ろ手を外し、仰向けに倒れる。

 普段なら俺が手を引いてやらないと……やっても乗りたがらないが、“見えてない”効果は絶大だ。

 纏っていた服を上から順に脱いでいき、すんなりと足を開いて俺の腹の上を跨ぐ。

 引き締まった長い足は、小柄な俺としては永遠の憧れだ。

「で、どこにイイとこがあんの?」

 目を細め見えないからわからない、とばかりに手を宙へと振れば、僅かに眉を揺らしたが、その手は掴まれ胸元へと招かれた。

「……」

 ここがイイ、なんて言葉は聞かせてはもらえないが、招かれた胸元を少し彷徨えば息遣いが変化して。

「んー……どこかな」

 見えていないように、突起の傍をぐるぐると探って焦らす。そう、あくまで“見えていない”ように。

「っ、……」

 じれったくて押し付けてくる胸板を堪能して、いい加減感じる部分に触れてやる。

 ────見えていないように。

 その言葉通り、本当は見えていたりする。夜目がきかないのは嘘ではない。が、近くに灯りとなるものがあれば話は別。

 そのための蝋燭だ。

 シノンが見えるように、なんて理由で灯したが、まさかその蝋燭で俺も見えるようになるなんて考えてもみないだろう。どの程度見えないのかは俺にしかわかんないからな。当然バレたら後がなさそうだが────。

 突起をこね回し、鍛えられた胸を寄せて遊ぶ。引き締まった体に、寄せられる柔らかさはないのだが。

「く、ふ、ぅ……」

 俺のをくわえていた時から興奮してただろう体に、漸く刺激という刺激が与えられて過剰反応してるようで、肩がビクビクと上下する。空いた手で太ももの辺りをなぞってやれば、肩だけでなく腹や腰まで震わせて。

「こっちも触って欲しいか?」

 少し触れたところで逆戻りすると、じらされ期待感が高まったんだろう、睨まれる。でも俺には見えていないことになっているから、何もわからない顔をしながら返事を待ち続けるわけで。

 やがて理性より感情が勝り、降参したシノンが再び俺の手を握ってその箇所──自らの中心部へと導く。

 羞恥、悔しさ、敗北感。食いしばる口元から滲み出る、兎にも角にも悔しげな表情に、下に敷かれながらも自分がこの男を……この男の心を支配してる優越感に、つい口角が上がる。

「濡れてんな」

 導かれた先に指を絡め、有りの侭の感想を述べる。俺のをくわえていただけなのに垂れた先走りを塗り込めるように、全体に広げヌルヌルと扱けば、ぴちゃ、と控え目な音が暗がりにやたらと響いた。

 熱く猛るそれは細身の割にしっかりと雄らしく、これが他の男の物だったらと思うと寒気がする。シノンだから、いいんだよなぁ。

 まじまじと実感しながら緩急をつけて扱けば、短い喘ぎを度々喉から漏らして体を揺らす。

「ん……っんぁっ、はっ」

 んーいい眺め。なんて思っても口には出来ないが。

 ニヤニヤしている俺に、握る筈の主導権を完全に奪われてることに気付いたのか、一瞬睨みをきかせて。

 次の瞬間、自分のモノが圧迫される感覚。

「ッ!?」

「ハっ……こんなにしやがって……」

 シノンが、後ろ手に俺のモノを握ったのだ。

「テメェも……イかせてやるよ」

 反撃、というわけか。してやったりな淫靡な笑みを浮かべるから、あまりのいやらしさに猛った自身がより熱くなったのは言うまでもない。

 手の感覚だけで探り当て、強弱をつけながら的確に快感を与えてくる。流石、弓の名手は伊達じゃない。

「やらしー手付き……」

「テメェの比較対象にも、んっ……なんねぇよ……」

 言いつつも、息があがる俺を見て満更でもないようだ。長い指で全体を満遍なく扱き、俺を昂らせていく。

 対して俺も扱く速さを上げ、負けじとシノンを絶頂へと導いて。震える体は、先に出してなるものかと耐えているようだが、健闘空しく。まだ一度も放ってないシノンに限界がきた。

「ふっ……」

 眉間に深く皺を寄せ、長い睫毛を下に伏せ。ぶるっと下から上へと大きく震えて飛沫を放った。その飛沫が生々しい音を発てながら俺の胸元、そして頬にまでかかる。

 それでもまだ残る残滓が、どぷっと溢れて伝い、腹も濡らした。

「ん、ハァ……」

「すっきりした?」

 頬の雫を拭い、ペロリと舐めて笑えば、それがまた感情を刺激したのか、僅かに悔しそうな声を上げ、すぐに胸元に手を置き、俺に体重を預けるように前屈みになって。

「? ……どーした?」

 解らなくて問えば……当然、返事はない。しかし、答えはすぐに行動で示されることになる。

 チラリと俺の顔を一度見て、俯き舌を出し……ぬめった感触が胸元を漂う。

「ぅ、わ……」

 思わず声を上げてしまった。だって、あのシノンが、だぞ?

 シノンが、俺の体に放った自分の精液を舐めとるなんて……それも、自ら。

「光栄に思えよ?」

 くくっと喉を鳴らし、淫靡に笑う。まるで、遂に自分が主導権を握ったような。かく言う俺は、それどころじゃないくらいに興奮してて。

「夢でも……見てるみたいだな、こりゃあ……っ」

 最初は飛沫のせいで濡れた箇所を舐めていたが、次第にそれは後処理というより、俺に快感を与えるためだけの行為になっていて。

「こんな体験、夢にしとくには勿体ねえだろ?」

 乳首にじゃれるように、脇を擽るように。更には首筋から頬にかけて口づけを落とすように。

 その度にドクン、ドクン、と。血管が脈打ち、堪らなくゾクゾクした。

 唾液の道標をあちらこちらに付け、最終的に頬にある精液もちゅるちゅる舐めとると、一拍置いて、口が、塞がれた。

「んっ……んふっ……ぅ」

 夢中になって貪る姿が可愛くて、腰に手を回して俺もその行為に答えてやる。

「ンンっ、むぅ、……んはぁ」

 思い切り舌を、口腔内の唾液を啜ってやれば負けじとそれに答えて口を動かす。一通り蹂躙し、どちらともなく口を離す。シノンの舌から唾液の糸が伝い、吐き出された生暖かい息が肌に染み込む。

 ……初めて見た。こんな、シノンの積極的な姿。

 女王気質なシノンだから、「やれよ」と促すことはあっても、基本的には興味ない素振りで「仕方ねえなぁ」と応じるだけ。それが、こんな。

「やっぱ夢見てんじゃねえかなぁ……」

 役得だな。なんて思う。大した使い勝手……それどころか、不便以外の何者でもなかったこの目に、こんな利用価値があろうとは。……口に出したらシノンは絶対怒るが。

「もっと、期待してもいいのか?」

「仕方ねえなぁ。期待に、添えてやるよ」

 いつもの台詞に、吐息混じりの偉そうな声。夢だとしたら、あまりにも生々しい。

「楽しみすぎて興奮しちまうって」

「ハンっ、してろよ。変態野郎が」

 鼻で笑うと、シノンは上体を起こしまた騎乗の体勢に戻って。そして俺は更に目を疑うことになる。

「……ふ、ぅ、っ」

 ちゅ、っと指先を唾液で濡らし、跨ったままのその姿勢で、自分で。自分の中に。

「……ッッ?!」

 にちゃ、と微かに響く。恥じらいを秘めた声が鼻から抜ける。舐めた指を後孔に差し込んで動かす湿り気のある音が鳴る。それは反則だろ!

 見てるだけでイけそうだ、なんて危うく喉から出そうになって必死で飲み込んだ。

「……」

見えていないように黙り。

「……シノン?」

「……っふ」

 気付いていないように問う。生唾すら、飲み込むのを躊躇って。

「どうした?」

「……んっ」

 これが今“普通に見える”状態だったら、こんなお預け食らう前に押し倒してるのに……最強の焦らしプレイだ。もしかしたらニヤニヤしながら見物してるかも、なんてのは置いといて、だ。

 溢れんばかりの欲に耐えて耐えて、そろそろ察してもいいか、っていう頃合いを見計らって俺は選んだ台詞を声にする。

「もしかして、自分で慣らしてたりすんの?」

「……」

 沈黙。音も途切れ、シノンの動きが止まる。

 聞いちゃマズかったか? そう考えそうになった瞬間に、栓が抜ける湿った音がして。

「っ、見れないのが残念だなぁ?」

 煽るように言うと弓を射る為の長く、それでいて逞しさも備えた指が、再び俺の雄に触れる。

「こんなにしやがって」

「そりゃ、なぁ?」

 先程触られたのもあるが、シノンのいやらしい姿が丸見えだからな、なんて口が裂けても言えない。

「な……、早く、シノン中入りてえんだけど」

 なぞるように俺のモノを弄んで、焦らすのを楽しんでいるように見える。自分がするならいいが、焦らされるのはキツい。貴重な体験だと思うとそれもいいもんなんだけど。

「焦んなよ、それとももう限界か?」

 笑っているが、シノンだってどう見ても余裕がない。余裕ぶっているだけで。

「シノンだって、中に欲しくてたまらねーくせに」

「ケッ……言ってろよ」

 俺のモノは握ったまま、膝立ちになってポイントを合わせる。先端がそこに触れると、きゅ、と俺を意識して窄んだ。

「入れられるか?」

「うっせえ……黙ってろ」

 ぬるぬると先端が窄みを擦りヒクついている姿は、そういうプレイに見えてきて卑猥だ。そのうち下に重みをかければ、亀頭がヌッと入口を広げ中に入り込んだ。

「ひっ、アアぁっ」

 瞬間、背中をくの字に反らせ高く喘ぐ。快感に震え力が抜けた体は俺が動かさずとも、一気に奥まで飲み込んで。

「アぁ、ひっ、んんんッッ!!」

「っ……」

 反らせた体を前屈みにして、俺の腹に手を付いて、肩で息をする。呼吸が激しく乱れ、息を吸うとぶるぶる震え、時折後孔がキュッと締め付けられる。

「一気に、とは、思わなかった……」

 パタパタっと再び腹部が濡れる。勢い良く内壁に起きた摩擦で、軽く果てたらしい。

「焦ってんのは、どっちだよ。……俺も危うくイきかけたっつーに」

 あまりの刺激に俺も気を抜いたらイきそうで。

 視覚からの刺激も凄いのに、中の熱も湿り気も、この狭さも。どれも堪らなく良くて。中で自身が唸ってるのがわかる。

「苦しいなら、俺が動くぞ?」

 達したばかりで敏感な体を鎮めようと、呼吸を整えているシノンに対して、俺は興奮で徐々に呼吸が荒くなるばかり。悠長に待ってる余裕はもう俺にはない。

「いいな? 動くぞ」

「っ待てよ、っ」

 シノンの腰を掴み、聞いたくせに答えを待たずして動かそうとしたら、ビクリと一度体が震え、直ぐ様腹に置く手が力んで制止をかける。

「待、てよ……」

「わりぃ。もう待てない」

 制止を気にせず腰を浮かせればキツく睨まれ、同時にキツく締められた。

「っく、キッツ……」

「ふ、んっ……てめえが、勝手に動きやがるから、だろ」

 限界まで興奮させたシノンが悪い、なんて心の中で身勝手な八つ当たり。渋々動くことを止めた俺を見て大きく息を吐くと、掌に重心をかけ、シノンの腰が上に上がって行く。

 ズズズ、と絡みついた肉が引き剥がされる感覚に昂ぶる。

「いいんだよ……てめえは……俺にイかされてりゃ……っ」

 言って今度はシノンの意志で持ち上げた腰を、勢い良く下ろした。

 パンっと肉のぶつかる音がして、遅れてシノンがたまらず片手で口を塞いだ。

「――っッん、アあっ!」

 奥にぶつかるとビクンと跳ね、強過ぎる刺激から逃れるように腰を上げ。その都度抜けないように適度に締め付け、口を抑えながらぶるぶると震え、快感に目を伏せて。

 イかせてやる、なんて言ってるシノンの方が感じちゃってるとこが、俺としては可愛くて仕方ない。

「ンっ、んっ、んうっ、ンンんッ!」

 数度繰り返し、途端、吐き出される声が一際高くなったことがイイ場所を刺激したことを知らせてくれる。それを見てつい顔が綻んだ。

 ニヤリと笑い、追い打ちをかけるように今まで大人しくしていた腰をクイっと上げれば、イイ場所を強く突いてシノンが快感に飛び跳ねた。

「んんンっ! ふ、かっ……」

「はぁー……中、めちゃくちゃあちー」

「う、あっ、アっ」

 自分のリズムで動きたいところを、俺の動きが邪魔をして。

「やっ、あっ、ハ、アっ」

 ビクン、ビクン、と身体が跳ねる度に徐々にリズムが狂っていく。こうなってしまえばもう勝手に腰が動いて。

「や、ナ……ふっ」

「なーんだ、よ」

 強がる余裕がなくなると、どうやら名前を呼ぶらしい。最近、そのことに気付いた。

 主導権を呆気なく俺に寄越してくれたもんだから、後はもう好き勝手し放題。……奪い取ったとも言うが。

「後は俺が、悦くしてやるから、な」

 再び掴む手に力を込め、シノンを上下させ自らは最奥目掛けて腰を浮かせる。快感を追ってしまう体は俺がさして力を込めずとも、楽に上下運動をしてくれる。

「アっ、あぁっ、んくっ、うっ」

「っは、きもちー?」

 汗ばむ体がぬるぬるして、それすらも媚薬のように互いを高揚させる。

「めちゃくちゃかわいー」

「見え、ねっ、くせに……!」

 見られてようが見えないのに言われようが恥ずかしがるなんて、どんだけ照れ屋なんだ。

 まあ、見えてんだけどな、実際は。

「見えなくたって、シノンが俺に感じてんなら、可愛いだろ?」

「はぁっ、ん……知るか……!」

「あー……も、限界」

 シノンの雄も張り詰めて、口に出さないだけで限界が窺い知れる。俺も、視覚も感覚もシノンで満たされちゃってマジでもう限界。

 ラストスパートとばかりに激しく出入りを繰り返せば、苦しそうな、でもどこか嬉しそうに見える恍惚な顔が見える。

「ヤ、ナフっ、ヤナフっ!」

「は、たまんね、シノン」

 名前を呼びながら、ギュッと後孔を締めつけ、ビクンと反り返り、シノンが先に達した。その刺激で俺も一足遅くシノンの中に吐精して。

「ひ……は……っ、はぁっ」

 途切れ途切れの荒い呼吸。息を吸う時にきゅっ、きゅっと締め付けられ、残滓まで搾り取られる。

 ずるりと液体の絡みついた自身を抜き去れば、余すことなく注ぎ込んだ精液が溢れ、尻から足を伝う。

「満足したか?」

 笑って問い掛けるが、めんどくさそうに目を細め、鼻で笑い返される。

「ろくに目も見えねぇくせに、この俺を満足させられたなんて本気で思ってんのか?」

「……はーん?」

「何だよ」

 つまり、遠回しにこんなもんじゃ足りない、って言いたいんだろ?

「見えてる時にもっと激しくされたいってことだろ?」

 思ってることをちょこっと装飾して伝えれば、お決まりの「馬鹿」の返し言葉。

 罵られるが、間違っていないから否定はされない。こういうところで愛されてる実感が湧いちゃったりして。

「ケッ。てめえのせいでドッと疲れたよ」

「それは悪かったな。でもこれなら良く寝れるだろ?」

「うるせえよ」

 ふいっと顔を背け、俺の上から退くと何事もなかったかのように濡れた秘部を側にあったタオルで拭き取って毛布にくるまる。

 俺はその動作にすら、再び勃ちそうなくらい興奮してるっつーのに。

「あ、マジで寝るんだ?!」

「……」

 確かに夜だし、疲れたんだろうし、わかるんだけどな。

 俺としてはもっとこう、いちゃいちゃとしていたいし、第二ラウンドだって行きたいくらいなのに、余韻も何もあったもんじゃない。

「……てめえも来ればいいだろ」

 だけど直後蚊の鳴くような声でほっそりと聞こえてきたデレた台詞を、俺が聞き逃す筈もなく。

「……俺の負け」

 降参、と両手を挙げフッと蝋燭の火を吹き消して、シノンの居る辺りに向かう。

「リードしてくれんだろ?」

「調子良すぎんだよてめえは……」

 溜め息混じりに、どちらともなく口付けを交わし、首に回されたシノンの手に導かれるまま俺も横たわって。

「……寝かせてやらねえから覚悟しとけよ」

「いいぜ、シノンがダウンするまで付き合ってやるよ」

「どうだか」

 夜闇の中笑いあってじゃれあって。こうして、まだまだ俺はシノンと愛を深めあったってわけで。

 視界は闇に覆われたが、脳裏に焼き付いた積極的なシノンの姿が鮮明に浮かび上がって、見えないのに見えてるような錯覚に陥って。

 この目も、こんな夜も、たまにはいいかもな、なんて思っちまう。

「まだ、足りねえよ」

「はいはい、わかってるって」

 そんな、蝋燭の消えた月夜の交わり。