猫耳奮闘記

「……」

 視界に映る、時折ピクリと動く自分にはない「それ」。

 一体どうなっているのかが全くわからない「それ」を一度気にしてしまうと、アイクはどうにも体がうずうずするらしい────。




「なあ」

 昼下がり。規則正しく脈打つ心臓の音色を聴きながら、ぬくぬくと人肌の体温を全身で貪っていた時のこと。ふいに呼ばれ、声のする方────自分の下敷きになっているアイクの顔に視線を向ける。

「ん?」

 体格のせいで代謝がいいのか、体温が高いアイクの上に乗っているのは落ち着く。

 俺だって、戦士としては細身だけれど小柄な方ではない。鍛錬によって鍛えられた体は無駄がなく筋肉質だ。並の男かそれ以上の重さはあるはずだが、そんな俺が全体重をかけてもこの男はびくともしない。だから遠慮なく体を預けられる。何より、体温が丁度いい。

 そんなわけで、寝台に横たわるアイクの胸元に顔を埋めながら、ひなたぼっこならぬ、アイクぼっこを満喫するのが、俺の何もない日のちょっとした癒しだったりするわけで。

「どうした? ……、ってなんだよその顔」

 声のする方に向けた視線が、ギラギラ光る瞳とぶつかる。

 仏頂面から覗く、年相応と思われる好奇心。あまりにも露骨にわかるもんだから、笑ってしまう。

「……なーに企んでるんだよ」

 表情自体は変わらないが、確実に何かに反応している眼差し。

 勘違いされがちだが、アイクは決して無関心ではない。人一倍まっすぐで鈍感……に加えて無愛想なだけで────大体最後のが悪いんだけど、蓋を開ければ、好奇心旺盛で熱い男だ。

「企んではいない」

「いや、その目は絶対何かあるだろ」

 無愛想だからこそ、ちょっとした変化がわかりやすかったりする。実際それに気づけるのは俺を含めごく一部だけど。

  そして本人に自覚はない。今も、そうか? と不思議そうな顔をしているが、俺はアイクが反応する何かが知りたくてさらに問う。

「教えろって、なんだよ」

「耳だ」

「ん? ……耳がなんだよ」

 まさか誰もいないのに耳打ちか? と笑いながら突っ込めば、続けざまに一言。

「いや、俺に耳を貸してくれ」

「…………。……は?」

 一瞬の沈黙。

 耳打ちではなく耳を貸せって、どういうことよ。聞いたはいいが、アイクの言いたいことが良くわからずに、冗談めいた問いで返した。

「前から思ってたんだけど……アイク、獣牙になりたいわけじゃない、よな」

「なりたい……か。考えたこともなかったな」

 こっちの混乱をよそに、表情一つ変えず真面目な返答。こういうところが「読めない奴」って印象を与える原因だし、さすがに俺にもわからない。

 自分で質問しておきながらだけど、獣牙になりたいなんて言わないことはわかってる。わかってるからこそ、意味がわからない。

「悪い、良くわかんないんだけど……俺の耳をどうしたいわけ?」

 いよいよ頭がハテナで埋め尽くされそうだ。真剣にこちらを見ているアイクにもう一度問えば、答えだとばかりに手が伸びて……。

「こうしたい」

「ひっっ?!」

 耳の根本に、アイクの手が、触れる。

 突然の行為に引き攣った声があがった。

「い、きなりなんだよっ」

 反射的にアイクが触れている左耳に手を重ね、動きを封じる。ただ触れただけの手に異常な程反応してしまい、無性に恥ずかしくなる。

 何か怖いものでも見たかのように大きく心臓が脈打つ。その鼓動が体中を震わせ、触れたアイクの手にまで振動が伝わってしまいそうだ。

 アイクはその様を酷く興味津々な顔で見ていて、気付く。

 おいおい、まさか。

「えーっと……。耳貸せって、……もしかして、そういうこと?」

「ああ。他に何がある」

 当然そうであろう、みたいに言い切られる。いやいや、むしろそれ、俺のセリフだろ。なんて考えてる間にも耳に触れた手は、俺が重ねた手で位置を変えることは出来ないが、強弱をつけてふにふにと動いていて。

「まー、った!」

「待てん」

 話すのに集中出来ないからと制止をかけても、アイクの手は落ち着きがない。仕方なく、動かせないように重ねた手に力を込めて。

「はいストーップ!」

 本気で振り解こうとはしていないから、さほど力を込めずとも手は動きを止めるが、表情は僅かに不服そうだ。

「耳貸せって、また唐突におまえは。俺の耳は繊細なの。敏感なの。いきなり掴むのは反則」

「触られると気持ちがいいものか?」

「……あの、アイクさん。俺の話、聞いてる?」

「聞いている」

「聞いててそれかよ!」

 アイクの質問は俺の斜め上をいっていて、返答に困る。それに会話をしている間も目線はずっと、アイクが右手を添えている俺の左耳に向いていて……頭の中はきっと獣耳のことでいっぱいなんだろう。何を言ったところで、まともな答えなんて求めるだけ無駄そうだ。

 俺が本気で怒れば流石に諦めるだろうけど……実際嫌なわけではない。ただ、驚いただけで。

「……」

「……」

「……わかった」

 暫しの間、硬直状態が続いて。そのうち……なんて僅かばかり期待してはみたものの、諦める様子がないどころか、こいつに尻尾があればブンブン振り回してそうな程に好奇心丸出しで、結局俺が諦めることにした。耳ひとつにそこまで興味を持ってもらえるなんて光栄なこった。

 覚悟を決めて、溜息ひとつ。

「はぁ〜。少し。少しの間だけなら貸してやるよ」

 押さえていた手を離して、降参のポーズ。

「いいんだな」

 言い終わるか否かのうちに。そう言ったアイクは音がしそうな程目が輝いて。生唾飲み込んで、喉仏が波打つのがはっきりわかった。どんだけ気になってたんだと、呆れを通り越して笑えてくる。

「いいよ。ってか、そんな顔されてダメって言えないだろ」

 言い終わると同時に、止めていた手が動き出す。

「……っん」

 ピクンと耳が震える。連動しているかのように、喉も震えて声がもれる。

 最初は探るように輪郭を滑るだけだった。徐々に指の動きは大胆になり、縁をなぞっていた指が少しずつ内側へ進む。耳の感触を楽しむように、同じところを行ったり来たり。指の腹にしっかりと感触を伝えようと、ゆっくり、執拗に。

 連続した刺激から逃れるように耳は幾度もパタパタと動いて、目も閉じては開いてを繰り返す。

「くすぐったい、な」

 大声を上げて笑うには小さい刺激を、軽く笑って肩を上げたり首を曲げたりして体から逃がそうとする。柔く摘まれるだけなら耐えられるが、なぞられるとくすぐったくて仕方が無い。

「……っ、んっ、はっ」

 その指が何度も何度も往復した頃には、くすぐったさの奥に、気付いちゃいけない何かが確かにあって。

「あっ、アイ、ク……もう、結構触ったんじゃない?」

「まだだ」

「ん、アイク……っ」

 次第に、ほじるように指が奥に近づく。内側の毛を絡ませるようにぐるぐると動く指に、背筋が震える。

「っっ、!!」

 ギュッと目を瞑り、刺激に耐える。ダメだ、これ。一度気付いてしまえば、たまらない。耳が、異常に、……気持ちいい。

 敏感に出来ているのは知っていた。けれどこんな執拗に、こんな深くまで誰かに触られたことなんてないわけで。勿論自分でも。

「アイク、も、いいだろ……」

 喘ぎに変わりそうな震える声で話しかけても、アイクは目の前の事に夢中で聞こえているのかいないのか、返事はない。

「アイク……っっ」

 無骨な指からは想像出来ないような、割れ物でも扱うかのように優しい手付きで触られて、絡まる毛の一本一本から、ぞわぞわと快感が込み上げる。

「っ、アイ、ク……!」

 目を瞑るだけでは足りない体が、快感を耐えよう逃がそうと、各々自然と動く。手はアイクの服を引っ張るように握り拳を作り、尻尾は左右に大きく揺れる。

「なんだ、そんな声出して」

 黙々と耳を触っていたアイクが漸く自分から声を発した。なんだと言われても、素直に耳が悦いとも言えず。とにかく限界を訴えるように、途切れ途切れの言葉を返す。

「も、ちょっと……無理っつーか……な?」

 指の動きに合わせて上から下までビクビク跳ねる。もうこれ以上はマジで変な声が出そうで、必死に堪えているから余計、代わりに体が悲鳴をあげて。

「ん、は……っひ」

「ライ」

「んんっ、な、に」

「お前、ここ……」

「っっ!」

 そんな時突然、右手ばかり気にして全く視界に入っていなかったアイクの左手が、探るように俺の股間に触れた。

「何でこんなになってる」

 形を確かめるように包まれた俺のそれは、衣服の上からでもわかるほどに……下敷きにしているアイクの体に押し付けるようにして存在を主張していて。

「マジ、かよ……っ」

 何でこんなにって、俺が聞きたいくらいだ。耳の快感に翻弄されすぎて、気が付かなかった。アイクの手で自分のカタチを認識させられ、余りの恥ずかしさに顔が焼けそうに熱くなる。

「バっ、か……! アイク、触るなって!」

 声が上がるほどに感じてしまったどころか、自身もしっかりと勃ち上がってしまった。言い訳の仕様がない。耳が、気持ちいい。

「も……っ、み、み、もう……っ!」

「耳、感じるのか」

 首を縦に振るも、このままでは耳だけでイかされてしまう。止めないと、と思うのに力が入らない。アイクの手に手を重ねるも、かりかりと引っ掻くだけで何の妨げにもならない。そうしている間にも毛先に縁にと、どこで感じているのか検証するように、順々になぞられていく。

 抗う術がないままどんどんと与えられる快感に、体が限界を訴え尻尾が床を叩いた。

「っっ、む、り……」

 精一杯力んで堪えようとするも、グリグリと根元を押されたが最後、体内にこもった熱がオーバーヒートしたかのように、ビクンと大きく跳ねて、背中が反り返る。

「っあ、〜〜っっっっ!!」

 声にならない声が出る。俺は、耳を触られただけで、達してしまったのだ。

 見開かれた目は生理的に抗えない涙で潤み、アイクの衣服が破れるんじゃないかってくらいに爪を立て強く掴んで。

「~っ、っふ、は、ぁ、っぁ、あっ、はっ……」

 余韻と呼ぶには大き過ぎる快感にビクン、ビクンと、数度体が揺れる。酸素を求め吸おうとしても、喘ぎと共に漏れていき、苦しさからなかなか解放されない。

 アイクは何も喋らず、ただ震える俺を眺めているだけで。

「っ、待、てっ、いま、動かすな……!」

 いや、正確に言うならばずっと黙ったまま、表情一つ変えずに。俺が達した後も、ひたすらに右手が耳を弄んでいる。

「〜っっ! っ、ひっ」

 背中にビリビリと電気が走る。まるで背筋を指で上から下にすぅとなぞられるような刺激に、達した直後の身体が震える。

 背はアイクの腹に自身を押し付けるように反り、首は上を向き、服を掴んだ手は力の制御が出来ないまま。

 精を吐したばかりで萎えるはずの自身が早急に硬度を増してきているのが、今度は自分でもわかる。

「も、アイ、っク、や、め……」

「ライ」

「っっ!!?」

 このまままたイクまでやるつもりなのか、アイクなら有り得る、と思い始めた時に、突然届いた名前を呼ぶ声。同時にピタリと止む刺激。

「っ……な、に……?」

 止めろと言いながら、いざ止められると途端に物足りなさを感じてしまうもんだから不思議だ。些細な抵抗すらできないが、再び動き出すかもしれないアイクの手に、体が構えている。

「体勢、変えるぞ」

「っえ、わ……っ!?」

 が、耳ではなく腕と腰を掴まれ、頭が理解するより先に体は反転しアイクに組み敷かれる。密着していた体が離れて熱が逃げていく感覚。

 アイクの体温が恋しい。

「……アイ、ク」

 自分のことでいっぱいで気が付かなかったが、覆いかぶさっているアイクの股間が、俺と同じように存在を主張しているのが見えた。淡々と攻めているように見えた表情も、荒く余裕がない。

「なに、……興奮、してんの?」

 アイクの顔に向けて手を伸ばす。頬に触れると、僅かに汗ばんでいて。そのまま髪の内側へと滑り込ませ、耳をなぞる。自分の耳とは全然違うべオクの耳の形を確かめてから、その手を後頭部に回して引き寄せる。

「ライ」

 アイクの視線と俺の視線がぶつかる。数秒見つめ合い、どちらからでもなく、吸い寄せられるように唇を合わせる。猫の舌と違うぬるりとした感触が口内をうろついて、思考が溶かされていく。

 悔しくて俺からもアイクの舌に吸い付けば、互いに奪い合うような激しいキスになり、整えようとしていた呼吸がまた乱れる。最後にちゅっと音を発て吸われ、ゆっくりと唇が離れた。

 再び視線が交われば、ただでさえ余裕がなさそうだったアイクの表情が、例えるなら飢えた獣のようで、今にも捕って食われそうな気分になる。

 ……獣は俺の方なのに。

「ライ……」

「ッ、んン……!」

 二度目の名前は、耳に注がれた。アイクの吐息混じりの声がダイレクトに入り込んでくる感覚に、全身の毛が逆立つ。

「アイクっ……」

「ライ」

「ふ、ぅ……ンッ」

 三度、

「ライ」

 四度、

「ライ」

 何度も。

「ライ」

 何度も。

 頭の中に直接聞かせるように、耳の奥に向かって声が吹き込まれる。同時に放たれる、温かい、獣の唸りのような荒い息が脳髄をかき乱す。

 聞こえてる、なんてレベルじゃない。脳細胞の隅から隅まで、振動して、反芻して。もう何回呼ばれたのかわからないほど、俺の頭の中いっぱいに、アイクの声と吐息が満ちている。

 周囲の音など何も聞こえない。ただただ、アイクの放つ音だけが耳道から脳に運ばれていく。

「ンンッ、アイク……っ、ぁ、いく……」

 後頭部に回した手が緩く髪を掴むがすり抜け、そのまま首をなぞり、首元の衣服に引っ掛かる。

「そこ、れ、喋、んな……」

 上手く舌が回らない。これ以上頭を掻き乱されたらどうにかなってしまいそうで、制止をかけようと掴んだ服を引いてみても、全く止まる気配はない。それどころか何度目かの名前を聞いた後、ずろろろろ、と形容し難い音が鼓膜を揺らした。

「〜〜〜〜〜ッっ?!!」

 何が起きたのか瞬時に理解出来なかった。瞼の裏がチカチカする。

「ッッ、ひ、ッく」

 どうやら、耳の内側を吸われたらしい。

 歯を食いしばったら、力みすぎて声が詰まった。アイクの服を掴む手が反射的に立てた爪に引っかかり、バリバリと嫌な音を響かせた。

「ッッ、ひゃ、め……それッ! ダ、め、ッッだ、ふァァァ」

 ずろろ、ちゅ、ずろろろ。

 吸って舐めてを繰り返される。振動。舌の這う感覚。呼気とは違う、唾液の生温かさ。それら全てが直接脳を刺激し、あっという間に快楽へと変換され俺の理性を奪い去っていく。

「らめ、らっ、て……はぁアっ、ふ、ンンっ、ンッ、ひぅッ」

 アイクの舌の動きに合わせて震え、喘ぎが漏れる。耳だけしか触れてもらえず熱を持て余した下肢が、無意識に腰を押し上げ触れて欲しいと強請ってしまう。引っ掛かった足の爪が無造作にシーツを引っ張った。

「気持ち良さそうだな」

「ひ、もちぃ、けど……こっち、も」

 堪らず言葉にして強請れば、ふ、と嬉しそうに笑い、舌なめずりするアイクが見えた。その姿だけでも、背筋から下腹部にかけて甘い疼きが駆け抜ける。

 先刻放った精がそのままになった衣服の下、その泥濘の気持ち悪さも忘れ再び硬度を増した自身は、触れてもいないのにあっという間に限界まで昂っている。

 早く、直接触れられたい。

 首に回した手を離す様促され両手を降ろせば、覆いかぶさっていたアイクの顔が視界を通り過ぎ、下へと向かう。期待で息が荒くなる俺の足を抱えて腰を浮かせると、下着と一緒にずるりと滑らせていく。

 解放され露わになった肉棒は、布が吸いきれなかった精液がとろとろと滴り、脱がされていく衣服に未練がましく糸を引いている。

「耳と同じだな。脈打ってビクビクしてる」

「どっちも、敏感なんだって、仕方ない、っだろ」

 完全に下穿きを剥がされ、下半身が全て露呈する。アイクはそのまま足の間に割り込むと、耳を舐めたのと同じ要領で指の先から舌を這わせていく。時折吸い付いては点々と痕を残しながら、足首、脹脛、膝裏を通り太腿へ。徐々に望む場所に近付いてくる刺激に震えと声が止まらない。

 回す相手がいなくなった両手で口を覆ったが、際限なく溢れてくる声をくぐもらせるだけで抑えることは出来ない。

「っ! ん゛っ! ……ん゛んっ」

 喘ぎに合わせて跳ねる足を、抱え込み持ち上げられる。腰を上げた体勢は、勃っている自身と、その向こう側にあるギラつくアイクの表情も両方見えてとんでもない羞恥に駆られる。

 口付けを落としながらも目を逸らさずに俺を射抜き続けるアイクの視線から、逃げられない。早く、早く、と心臓が早鐘のように打っている。太腿の付け根に差し掛かり、ちゅ、っと吸い付く音がした直後、ずっと触れて欲しかった滾らせた肉棒に、舌が。触れた。

「んぅぅぅうぅぅ」

 まるでアイクの舌先から電流でも流されたかのように、熱の中心から脊髄を通って頭の中までビリビリ痺れる。

「ふぅっ、ん゛ぅっ、んぅぅ」

 腰が勝手に浮いて、足はもう自分の物じゃないみたいに制御がきかず跳ねている。ねっとりと舐め上げ、先端まで行ったと同時に咥えられ、アイクの熱が篭もる口内に溺れた。

「ン゛ン゛ンんんっっっ」

 威嚇する時のようにピンと尻尾が張り、視界が白けた。咥えられた。ただそれだけで、張り詰めた自身は堪えられず、アイクの口内へと白濁を放った。

 脈打つ度に数度吐き出されるそれを吸い取られ、アイクの口から解放される。もっと包まれていたかったと思ってしまう程僅かな時間で自由になった自身は、出したばかりの余韻でヒクヒクと震えている。

 アイクはといえば、受け止めた俺の精を手に吐き出し、それを後孔へと運んで。アイクの口から出てくるとろみのあるそれが、紛れもなく俺の放ったモノだと思うと沸騰しそうに顔が熱い。

「ア、イク……っ」

 抑えていた手を緩めて、名前を呼んだ。

「な……も、おまえ、も」

「ああ」

 アイクの股間で今にも張り裂けそうな程に膨張しているそれに視線を這わせる。もう、限界なんだろ? したいんだろ? なんて思いながら、それはそのまま俺の感情でもあるわけで。

 入口を確認するようになぞられ、2本の指が後孔内へと侵入してくる。潤滑油代わりに俺の精を塗り込んでいくための行為なのに、無骨な指が内壁を擦る度に生理的に抗えず涙と喘ぎが溢れた。

「んんっ、あ、っあい、ク……ひ、あ」

 指を開き拡げたり、回転を加え満遍なく壁面をなぞっていく。もちろん、前立腺も掠めながら。その間に空いた方の手でベルトを外し、ジッパーを降ろし、アイクのパンパンに反り返ったモノが、ようやく狭い所から解放されぶるりと揺れた。

「んっ、ふーっ、ふーっ……ふーっ」

 ギンギンに昂ったアイクのいきり立つ雄から目が離せない。食い入るように見れば、微かな笑い声がした。

「随分、物欲しそうな顔をするんだな」

「っっっ! こ、れはっ……そ、の」

「ライ、いいか?」

 ゴクリと唾を飲んだ。ちゅぽっと濡れた音を響かせ、指が抜ける。ひくついた孔に、熱の塊が口付ける。濃厚なキスのように、触れられた窄みがアイクの先端にちゅうちゅう吸い付く。

「っは、いい、よ、おまえの、すきにっあぁぁあッ」

 言い終わるのを待たずにアイクの亀頭が入り口を押し広げ侵入する。背中が反り返り浮いた。膝裏を掴まれ、そのまま深く押し込まれる。張り詰めた質量と熱が一気に穴の奥までを隙間なく埋めていく。

「っ、あつ、っ、なかっ、やば……ぁッ」

 どこまで挿入っただろうか、多分全部じゃない。けれど既に腹が出るんじゃないかってくらいに俺の中いっぱいにアイクが収まってる。「動くぞ 」と一言呟くと、今しがた押し込まれたばかりの肉棒がずるりと引き抜かれていく。

 大きすぎる質量が失われ、内蔵ごと持っていかれるような錯覚にゾワゾワと毛が逆立ち、抜けるすんでのところでまた押し込まれ、腹まで埋め込まれる。

「っ……」 

「うァっ、んァっ、っ、ひっ」

 腹の奥に何度も口付けされ、内壁は激しく擦られ、アイクの熱で熱いのか、摩擦で熱いのかもうわからない。中心で再び緩く勃ち上がった自身からは、アイクが押し込まれる度に透明な液が溢れた。

 タガが外れたように、突かれる度に「気持ちいい」と声が漏れ、尻はきゅうきゅうと搾り取るように締め付けた。アイクの体がビクついて艶を含んだ息を吐く度、俺だけじゃなくてアイクも感じてるんだと嬉しくなる。

「はっ、アイ、クっ……ア、イクっ」

「ライッ……そろそろ、っ」

「ふぁ、っ、ひっ、い……よ、出し、て」

 腹から急激に迫り上がる熱を感じる。噴き出す汗の量と苦しそうな顔で、同じようにアイクも限界が近い事がわかる。叩き付けるような激しく抽挿を繰り返し、肉のぶつかり合う音が響く。体重をかけるように乗り上げて、深く押し込まれ、噛み締めるような声が聞こえたと同時に熱い熱い、アイクの精が中に注がれた。

「〜〜〜ッッッ!!!」

 外に放てば凄い音がしそうな程の勢いで、腹の中に出されているのを感じる。余すことなく全てを吐き出そうとするアイクの震えに合わせて、俺も自らの腹の上に吐精した。荒い呼吸を繰り返すアイクの汗が滴り落ち、腹上の精液と混ざり合っていく。

「ぅ、っ、あ……まだ、出てる……」

 腹の奥で震えるアイクを感じながら余韻に浸る。アイクが手を離したことで支えを無くした両足が、力なく床に投げ出される。まだ呼吸の整わないアイクに触れようと、ゆるりと伸ばした手を掴まれた。

「っあ、な、に」

 そのまま思い切り手を引かれ、上半身が浮いた。その浮いた腰を掬い上げるようにもう片側の腕で抱えられ、あっという間にアイクの足の上に乗り上げ、向かい合う体制になる。繋がったままのそれは角度が変わったことで重力で深く刺さり、出された精液が奥に押し込まれる圧迫感に、達したばかりの体が震える。

「ライ」

 近くなったアイクの顔がよく見える。汗が滲む額に、前髪が少し張り付いている。掴んでいた手が後頭部に回され顔が更に近くなり、キスされるような気がして目を閉じた。

 ────が、この時の俺はすっかり忘れていた。そもそも今日、なんでこうなったのか、ということを────

 顔を通り過ぎた先、耳の毛がアイクの呼気で揺れた。あれ?と思った時には遅く、反射的に制止の言葉が口を出るより先に。

 アイクの開いた口が、歯が、俺の耳に……触れた。

「ひっ…………」

 ガリっと、噛み付いた音がするのとほぼ同時に、喘鳴のように空気が喉を鳴らした。歯型が付いたであろうその音を引金に頭が真っ白になり、まるで体が壊れた機械のように制御がきかなくなる。

「っぁ?! ァッ、っっ! っひ、ぁっ」

「っっ、キツ……っ」

 息が詰まる。尻はアイクを思い切り締め付け、腹の中は痙攣し、足と尻尾が跳ねる。見開かれた目はチカチカして、縋り付くようにアイクを掴めば、今度こそ口を塞がれた。

「んぐっ、んふ……っぅ」

 その間も痙攣は止まらず、舌を吸われるだけでも腰が反りそうなくらいの快感にわけがわからず涙が出た。

「んーーっ、ふぁ、ぁ……んく」

 ……どれだけの時間だろう、緩い口付けを続けているうちにやっと思考が定まって来て。何だかとんでもない状態に陥っていたな、と羞恥に駆られた。名残惜しくも離れたアイクの唇が、柔らかく曲線を描く。

「ふぁっ、ば、かアイク……」

「可愛いなお前は」

 笑いながらそう言うと、まだ繋がったままだったソレをずるりと抜き去った。栓を失ったそこから、下に滑り落ちてくる液体の感覚にすら、未だ敏感な体は反応を示す。

 ずっと入っていられそうだ、なんてサラリと言われたけど、アイクならやりかねないなと思うと抜かれた刺激とは違う意味で身震いした。

「っもう、……おまえには耳貸さない」

「怒ってるのか?」

「さあな、どっちだと思う?」

「今度は逆の耳に聞いてみるか」

「ばっかおまえ……!」

「冗談だ」

 楽しそうにしてるアイクを見るのは悪い気はしない。だけどこれにはさすがの俺も身が持たないから…………

 たまーになら、また貸してやってもいいぜ。と、お返しにアイクの耳に噛み付いて囁き、再び甘い口付けを交わすのだった────。







2021.12.23

耳責め全部盛り!な初アイライ。