愛でるや愛でる

 シノンは可愛い。何がって? 全部だよ。

 不機嫌そうな顔も、皮肉めいた口調も、長い髪も。

 細い腰も、整った輪郭も、引き締まった体さえも。

 どこを見ても可愛くて仕方がない。


 

  愛でるや愛でる



「シノン」

 ベッドに体を沈めて、気だるそうにしているシノンに声をかける。用事なんて特にない。ただ声が聴きたいだけ。

「あ?」

 返ってくるのは、面倒くさいと言わんばかりの低い声。

「何だよ可愛げねえなぁ」

 そんな態度も可愛いんだけど、わざと言ってやる。

「はいはい、どうせ俺は可愛くねえよ」

 ほんのちょっと眉を寄せる仕草。適当に聞き流してるようで、ホントは少し気にしてる。

「嘘ウソ。すげー可愛いぜ」

 だから訂正の言葉を、顔を覗き込んで言ってやれば、露骨に目を反らして。

「……そうかよ」

 これだけでも照れているのがわかるから可愛い。

「おう、メチャクチャ可愛い」

「……っるせぇな。一回言えばわかんだよ」

「いいじゃん。可愛いんだからさぁ」

 表情は不機嫌そうに見せてるけど。耳が赤くなってることは、気付いてないんだろうな。

 可愛いの回数が増す度に、赤の濃度も濃くなって。今じゃ完璧な赤色である。

「くくっ、真っ赤にしちゃってなあ」

 耳朶を弾くように触れると、ビクッと体が跳ねる。

「っテメ……っ!」

「あーもう可愛すぎるだろおまえ」

 見掛けによらないウブな反応に、たまらず乗り掛かって抱きついて。その勢いのまま口づけちゃったりして。

「ん……っ」

 驚いた表情を浮かべるけど、拒む仕草は見せない。これは無言で許可してくれてんだよな? なんて無言だからって勝手に解釈して、舌を差し込んで。

「ふ……」

 くちくちと互いの舌を絡めるのってやらしい。その時のシノンの顔はもっとやらしい。

「っは……可愛い」

「は、っ、……んだ、よ」

 キスの効果で、顔まで耳朶と同じ色に染まり始める。たまらない。食べたい。

「っておいコラ! どこ触ってやがる!」

「どこって? シノンが気持ちイイとこだよ」

「はぁ?!」

 服越しに股間を弄る。流石に手を掴まれたけど、止めてやるつもりなんてない。

「何だよ、気持ち良くねぇの?」

「……この変態野郎」

 言い返す言葉がないらしく、悔しそうに顔を背けるシノン。手は掴まれたままだけど、力を入れて揉み扱く。

「んっ、く……ふ」

 噛み締めて声を出さんとしてるけど、たまらず洩れる吐息がそそる。

「気持ちイイんだろ」

「……るせぇ」

 緩急をつけて扱いてやれば、制止の為に掴んでいた手が、いつの間にかすがりつくように腕に回されていて。この変化が堪らなく好きだ。

「……っく、おい」

 切羽詰まったような声で、噛み締めた口を開いてシノンが俺を呼ぶ。

「なーに」

「何、じゃねぇよ……!」

 その震える声から伝えたい事を汲み取って。

「もうイきそうか?」

「っ……ふ、く……」

 俺の質問を無視してるようで、表情は遠まわしにイきそうだと訴えてくる。

「このままイったら服汚れちまうな」

 それが嫌なんだろうけど、すんなり脱がせちまうのはもったいない。もったいないから……。

「嫌だったら可愛くねだってみ?」

「っ……!」

 面白半分で言うと抓るように強く腕を握られ、真っ赤な顔で眉を釣り上げ睨まれる。

「調子、っ、乗りやがって……」

「少しくらい調子乗らせろって」

 手を止めずに喋れば、キツい視線がユラユラ揺らいで。それでもギリギリまで震えて耐えて、結局悔しそうに言葉を吐き出した。

「……出る、から。っ脱がせろ……」

 上からな口調だが、赤く染めた顔から出る言葉には可愛さが滲んでいて。ドキドキする。

「素直でよろしい」

「っは、後で、覚えとけ」

 返答に満足して、手を止め顔を覗き込めば、目を合わせないように反らされて。

 恥ずかしがってるその光景を見ながら、俺は体を起こし、鼻歌混じりにシノンの衣服を下ろしていく。

「珍しいな。おまえが素直なの」

「服が汚れるよりマシなだけだ」

 下ろす衣服の内側から、一切無駄のない足が現れて。少しずつ肌色の面積が視界の中に増えて、少しずつ興奮が高まる。

 シノンもまた、少しずつ露わにされる自分の体に動悸が上がり、胸の上下が速くなる。時折足を擦る衣服に体をひくりと震わせて。

「うっわ、エロい」

 露わにされたソコはまだイってないのに濡れていて、下着から僅かに引いた糸がいやらしく光る。もう汚れちゃってんじゃん、って言ったら流石に怒るだろうなぁ。

 そう考えてるうちに下穿きを全て脱がし終え、下半身が一望出来るようになる。ひくひくと刺激を求めて脈打つ雄が、体の中心で存在を主張している。

「口でしてやろうか?」

 見てたら自然と口走ってた。火照り色付くシノンの雄が、誘惑のオーラを出してるみたいな感じ。

 吸い寄せられるように足の間に顔を割り込ませ口付ければ、目を見開いてビクリと跳ねる。

「な、にしてんだよ……!」

「キス?」

「キス? じゃねぇよ……っ」

 唐突だったせいもあって怒鳴られたが、そのまま開いた口に先端を含んで。

「っっッ!」

 奥までくわえ込んで吸い取るようにずるずると引けば、体内から魂まで引き抜いちまってんじゃないかってくらいに全身が震え脱力して。漏れ出る先汁を吸い出しながら繰り返せば、泣きそうな声をあげる。

「ァ、め、んな、ァアぁッ」

 このまま続けたらシノン気持ち良すぎてどうにかなっちまうかな?

「ゃ、ァ、ァッ、ひァァ、ンンッ」

 ────どうにか、なっちまえばいいのに。

「や、なふッ、ヤナフぅっ」

 俺の前髪を容赦なく掴み、まるで矯声を上げ身悶える姿はまさに淫猥。それはそれは堪え性のない奴ならこれだけでイっちまうだろって程。

 引かれる髪は痛いはずなのに、全然痛みを感じない。違う。感じる余裕がないくらいシノンに熱中してるんだ、俺。

「ぁああ、ァッ、なフっ! ヤナフ……っっっ!」

 一際甲高い声が耳に届き、口内には生温い液体が放たれる。躊躇いもなく飲み込んで、更に根こそぎ吸い出した。

「ひ、ぁは、んんンー……っ!」

 濁音を響かせて、ドロリと鈴口から出て来る精液を全て嚥下して顔を上げれば、半ば放心状態のシノンの顔が見える。

「ふっ、はっ……ハっ、ぁ」

「その顔も、可愛くてそそる」

 体は余韻で痙攣して、半開きの口はひたすらに酸素を求めて。悪態を吐く余裕なんてそこには無い。

無防備に開く口に唇を重ね、舌を差し込んで。

「ん……ぅ、ふ」

 絡める舌からもひくひくと痙攣を感じる。

 暫くすると眉を寄せ不機嫌そうな顔で俺を押し返して。

「……っ、口、濯いでからしろ……」

 さっき飲み込んだシノンの味が不快だったみたいで。舌をちろっと覗かせて苦ぇの一言。あぁ、悪い。って思いながらもそんな姿にも……いやもう全部可愛いんだって。

「ホントおまえは何しても可愛いな」

「ガキくさい見目のくせに、てめぇはちっとも可愛くねぇ」

「いいんだよ俺は可愛くなくて」

 漸く皮肉を口に出来る余裕が戻ってきたようだが、未だに体は余裕がないようで……。窄まった秘孔が物欲しそうに動いている。

「なぁ、ここひくついてんだけど」

「気付いてんなら見てねぇでさっさとしやがれ……っ」

 煩いとか見るなとか。そんなじゃなくて、偉そうでも俺を早く欲しがってるのが浮き出た言葉。嬉しすぎて、照れる。

「こんなに余裕ないなんて珍しいな」

「ハっ。そう言うてめぇも、全然余裕ねぇじゃねぇか」

 シノンがニヤリと笑い、俺の欲求を露わにした膨らみを、服越しに足の指でなぞる。たったこれだけの刺激で背筋がゾクゾクする。

「っソレ! 反則だろ……! やらしすぎ!」

「うるせえよ。喋ってねぇで……さっさと……」

「わかってるよ」

 シノンの誘いにたまらず前を寛げ、ガチガチに興奮した自身を取り出す。すぐさま先端を宛がい、シノンの熱を感じる。

 いい? なんて聞いてる余裕もない。慣らすなんてことも頭の片隅に追いやられて……。

 早く、中に入りたい。

 腰をぐっと押せばずぷっとくぐもった音を上げ、シノンの中に亀頭が入った。

「ッ……!」

 それからは引き摺られるように中へ中へ進み、根元までが視界から消えた。

「っはぁ、あっつ」

「ッア、く、ァアッ」

 少し痛みに歪む顔。やっぱり慣らさずにはまずかったか?

「シノ……」

「い、から……黙って……っんぅっ」

 痛いか? って聞こうとしたら首を2回軽く振り、止めることを拒否する。苦しそうなのはシノンの方なのに、こっちがどうにかなりそうだ。

「欲張り」

「ッッ!」

 折り曲げられている膝裏を掴み、足を持ち上げる。尻が上向きになったことで更に重力任せに深く入り込み、最奥部を突く。

「ひぁっ、ぁぁあ」

 そのまま押しつけるように奥へ奥へと体重を掛けて突けば、息吐く暇なく喘ぎを上げて。

 心配する傍ら、もっと鳴いてほしくて。ずるりと抜け落ちる寸前まで引き抜いては、また奥に押し込んだ。

「ひっ、ハッ、ぅアァっ、ヤ、ぁぁあっ」

 たまらず漏れる喘ぎを抑えるように、かつ赤く火照った顔を恥じるように、両腕で顔を隠して。それでも上がる声は艶を増すばかりで、火照る顔は腕の隙間からいやらしく歪むのが見える。

「っは、かわいー、シノン、可愛い」

「っの、ぉ、馬鹿、野郎……っっ」

 言葉に応じてぎゅうぎゅうと締め付けられる。

「ッ、も、イきそ……」

 締め付けられたキツイ孔内を抜き差しする快感は凄まじくて。熱くて、溶けそうで。

「ぁぁあっ、アアッ! ヤナフっ! ヤナ、ふぅぅっ」

 絶頂が近いのはシノンも一緒で、切羽詰まった声で名前を呼んでくる。その声に応えるように俺の雄は脈打って、ドクドクと精を吐き出す。

 それを搾り取るかのように、小刻みな締め付けが続いて、ぶるりと震えてシノンも己の精を放った。

「っは、はぁ、ハぁ……」

 僅かに潤む瞳に、大きく開かれて呼吸をする口。それに伴い上下する胸。自身の精液で汚れた腹。

「っ!? て、め……」

「わり……収まんねぇ」

 見てたら、イったばかりなのにシノンの中で再び質量を増していく俺がいて。

「もうちょい、我慢しろよ」

「っざけんな……っアァっ!!」



………………

…………

……




「百にもなって随分と性欲持て余してんだなぁ……あ?」

「いや、そんなつもりなかったんだぜ? シノンが可愛すぎるのが悪い」

 ちょっと、なんて言っておきながらシノンを見てたら結局歯止めが利かずに……。気だるそうな少し枯れた声に眠そうな表情が、どれだけ疲れさせたかを表していて。

「よし、お詫びに俺の膝貸してやる」

 無理させちまったし寝かせてやろう、と膝上をパンっと叩いてシノンを呼ぶ。

「ハァ?」

「嬉しいだろ? 膝枕」

「んなもんじゃ詫びになんねぇよ」

 最初からかわされるのはわかってた。当然の反応だ。だけど、

「へ?」

 違うのはゴロンと、俺の膝に頭を預けるシノンの仕草で。

「今度、酒、奢り……だ」

 目を閉じて、徐々に消えていくシノンの声。安定した息遣いで、直ぐ様眠りに就いたことを確認する。

「……っとに、可愛いんだからなぁ……」

 シノンが目覚めた時に、理性を保てていられるか……寝顔を見てると今から不安で仕方ない。






2009.1.31