レモン味

「シノンさん! 僕とキスして!」

 唐突に。少年は言った。

「何言ってんだおまえは」

 言われた側はいきなりのことに顔を赤くする。

「シノンさんとキスがしたい」

 そんなシノンに更に少年は言い寄る。

「マセたこと言ってんじゃねえよ。チビのくせに」

 自分よりもはるかに体格の良いシノンに頭をくしゃくしゃされて、ヨファは口を尖らせた。

「キスくらい僕にだって出来るもん!」

 意地でもしたい! という意思表示に強く言い放つと、シノンは溜め息をついてその場にしゃがみ込んだ。

「なんだって急にそんなこと」

 しゃがんだことでヨファより少し低くなった目線で問い掛けると、ヨファは楽しそうに答えた。

「初めてのキスってさ、レモンの味がするんでしょっ?」

「……は?」

 意表を突かれたのか、シノンは目を点にさせて。

「だからしてみたいなって♪」

「……してみたいな……っておまえな。そーゆーのは好きなヤツにしろ」

 先刻より深く溜め息をつくシノン。しかしヨファは気にした様子もなく飄々と言い放った。

「僕、シノンさん好きだよ」

「……!?」

「僕はシノンさんとキスしたい」

 真顔で告白され、シノンは自分の顔が熱くなっていくのがわかった。

「……この、マセガキ」

 赤い顔を隠すように俯くと、ヨファもしゃがんでシノンの顔を覗き込む。

「だめ?」

 首を傾げながら聞く姿からはまだまだ幼さが窺える。何でこんな子供に翻弄されてんだ?なんて思いながらも、シノンはその真剣な瞳に折れた。

「……一回だけならな……」

 シノンの承諾を得たヨファは、年相応の満面の笑みを浮かべて。

「じゃあ、目、閉じて!」

 ヨファの言う通り目を瞑ると、柔らかく、小さな唇がシノンに触れた。それは拙くて、まだまだ未熟な。

「……ふ、ぅ……」

 すっぱい果実の味がした。

「……って、俺は別に初めてじゃねぇよ……」

「え?! レモンの味した?!」

「……」

「……」






2008.9.17