天気がいい。晴天で爽快だ。
だけどそんな日に、俺は困ってる。それはもうすっごーく、困ってる。
理由は単純だ。シノンに触れた時の記憶が忘れようにも忘れられなくて、以来マトモに顔が見れやしない。恥ずかしいんじゃない。申し訳ないんだ。
トレードマークの結った赤い髪を尻尾のようにいつでも靡かせて。嫌でも目に付くシノンを、俺としてはもっと見ていたいんだけど……。
「はぁ……」
しゃがみこんで溜め息────最近のしょうもない日課だ。
罪悪感を感じながらも夜になると素直な俺自身を鎮める為に使わせてもらってるもんだから、余計に罪悪感が増して、溜め息。その繰り返しで幾日が過ぎただろうか。
「何やってんだろ俺」
「ああホントにな。溜め息ばっかりつきやがって」
「つってもな、止まんな……って、え?!」
独り言の筈がタイミング良く返事が来て、つい会話のように返してしまう。が、気付いて振り返れば後ろには赤毛で長身の、俺の好きな……
「シノン?! え、俺に、何か、用?」
焦って片言になる言葉。どんだけ動揺してんの、俺。
「文句言いに来てやったんだよ」
「……文句?」
いきなりのことだったから思い切りシノンの顔を見てしまい、不機嫌な瞳と視線が交じる。それだけで胸の鼓動は爆発寸前。ああ、ヤバいってば。
────シノンを見れない理由……確かに罪悪感もある、あるけど。
本音としては、もう一度抱きたいな、なんて思っちゃうから だったりして。……もう俺、ホント最低。
「視線感じると思って見りゃ、いつも人の顔見て溜め息つきやがるでけぇ猫がいてなあ」
「え、 あ……ば、バレてたんだ」
何の文句かと思いきや、最近の望んでやってるわけじゃない嫌~な日課がモロにバレていて。恥ずかしいというより、やっぱり後ろめたい気持ちの方が強く大きく沸いてきた。
「別に深い意味はないんだ、その……あれ。偶々。偶ー然。」
言いようがなくて誤魔化すように笑うといつも以上に眉を深く寄せ、嫌な顔をされる。何も言われないことが逆に痛い。
「あー……あはは、駄目、だよなやっぱ」
こんな適当な理由で納得するようならわざわざ足を運んで文句など言いに来ないだろう。それは解ってるんだけどさ、何て言えばいいんだ?
見てると抱きたくなっちゃってー……ってもうそれ変態じゃん。
百面相する勢いであれやこれや考えて否定して、結局最後に出たのは深い溜め息。
「その、だから……ハァァ……」
駄目だよ俺は。
どれだけ考えてもシノンを納得させるどころか怒りに触れないような答えが思い付かない。
「悪い、可愛いなって……つい」
困った挙げ句そうとしか言えず、呆れる。
そんな言葉に漸くシノンが口を開いたかと思えば、同じく深い溜め息。
「はぁ……。テメェが発情期の猫だってことは解ってんだよ」
「あ、いや、……はい」
返す言葉もございません。どうせ発情期の猫ですよ、シノンに関しては。
「で?」
「で? ……って、何」
悲しきかな、弓の2、3本くらい目を閉じてる間に撃たれててもおかしくないことを言った自覚があるのに、何も起きないのは奇跡だ。それどころか、怒った素振りも見せないから驚きの余り瞬きの回数も増えるわけで。
「だからそれだけかって聞いてんだよ」
「へ? いやっ、その……可愛いから、抱きたいなぁ、なんて……」
可愛いって言ったのにそれだけか、なんて返すから尋問のようについつい本音がポロッと零れ落ちる。反射的に今度こそ一発食らう覚悟を決めた。
「……」
が、衝撃がくることはなくて。
けれど不機嫌極まりなく、眉を深く深ーく寄せて、腕を組んでこっちを見る……というより睨んでくる。逃げ出したくなるこの空気に口の端が引きつって止まらない。動揺が浮き彫りだ。
「ケッ、気に入らねえな」
口を開いたかと思えばやっぱりな、と言わんばかりの感想。最初から思った通りだっていうのに傷付く心はガラス製か何かか? 自分自身面倒で仕方ない。
「ははは……」
目線を反らして空笑い。尻尾はガッカリした気持ちが反映して力無く地面を這ってる。
────でもこの尻尾がシノンが吐き捨てた言葉に反応して揺れるまでそう時間はかからなくて。
「結局口先だけかよ」
どちらかと言えばラグズのように鋭い眼孔をこちらに向けて、それは威嚇のようで挑発にも見える。
「情けねぇなぁ、ラグズってのはよ」
罵るようにぶつけられる言葉の端々に感じる違和感。……ん? 口先だけかよ、ってどういうことだ?
どう聞いても「何で行動に起こさない」って言われてるように聞こえるんだけど。それってさ、誘われてるってことになるんじゃ、ってシノンに限ってないだろ! いやでもそれ以外に今の言葉の意味がわからない。
絶望しかなかった場面で突如期待の光が見えたような気がして、ふるふると尻尾が動く。顔に出さないようにしても、引きつってた筈の口がにやけで緩やかなカーブを描いちゃったりして。
「まさかとは思うんだけど、俺のこと誘ってたりする?」
「ハァ? ウダウダしてるテメェを見てると苛々するって言ってんだよ」
だよな。ストレートに聞いてみたけど、仮にそうだとしても「はい、そうです」なんて答えるキャラじゃない。だとしたら、聞き方を変えて。
「抱きたいから、抱いてもいい?」
「……」
今度は、返答がない。ここで何も言わないのは、承諾と取っていいのだろうか? ……いや、ここまで来たら取るべきだ。そうじゃなきゃ男じゃない。
立ち上がり、一歩また一歩とシノンとの距離を詰める。シノンは後ろに下がることなく、デカい態度のまま待っている。
並ぶとわかるが、シノンのが背、高いんだよな……。
「……するから、な」
シノンに、というより、最後の一歩で躊躇う自分に一言。
興奮しすぎて手が震えそう。足も震えそう。尻尾なんてブンブンしてる。生唾飲み込んで喉が鳴る。
ああ、夢にまで見たシノンにまた触れられるなんて。
頬に手を触れたらさっきまでの戸惑いや躊躇いなんて一瞬で吹き飛んで、堪らなく抱き寄せてすぐに唇を奪った。微かに残る酒のニオイ。それに束ねられた髪から漂う石鹸のニオイ。シノンの、ニオイ。
夜な夜な妄想で抱いてたシノンが、ホントに腕の中にいる
「あー、やべ、マジ可愛い……!」
夢じゃないよな? なんて強く抱きしめて。こんなリアルな感覚なら、いっそ夢でも惜しくないけど。
しつこいくらいに吸い付いて、逃げる舌を絡め取って。唾液が口の端から溢れようが気にせず続ける。平常心を装ってたシノンが、時折苦しそうに瞼を揺らすのが嬉しくて、ずっとこうやって絡め合っていられたら……なんて思ってしまう。
「っ、 も……」
貪って、貪って、貪って。
そしたら今までされるがままだったシノンが、俺の体を押し返してきて。
「……やっぱイヤ?」
イヤ、なんて今更言われても止められるわけないじゃんと思いながらも、本気で嫌がられてたらどうしようって気持ちもあるから聞かずにはいられない。
「しつ、こいんだよ……」
返って来たのは返答にならない返答だけど、口付けばかりで恥ずかしいのか、それともその先が我慢出来ないのか……どちらにせよ俺を興奮させる。
「じゃあさ、もっと激しいこと、してもいい?」
ゴクリとまた生唾を飲んでシノンの胸元に手を掛ける。
許可の言葉もないが、制止の言葉もない。これがシノンなりのOKサインなのはさっきのでわかってる。
俺達ラグズは割とラフな格好だけど、ベオクの衣服はやたらとゴテゴテしてて脱がしにくい。ベルト外してずらして、インナー捲り上げて。漸く解放された服下の体は端正なもので。整った腹筋から段々と衣服と視線を上げて行けば見える、淡色果実。
昇りかけた太陽光が煌々と体を照らし、くっきりと見える筋肉の陰や肌色がむしろ艶めかしく感じる。ツンと突起をつつくと後ろに体が逃げるから、背中に手を回して引き寄せて、勢い任せでそこに唇を落とす。
「っ……ぁ」
呼吸と共にふいに漏れ出た声に、悔しそうに俯いて。
「ココ攻められんの好きなんだよな? シノンは」
「っ誰が、んなこと言った」
「だって前回、ココだけでぐしょぐしょだったじゃん」
思い出して綻ぶ顔に、ムカつくって感情丸出しの表情を返されて。
「クソ……っ、勝手に言ってろ、発情期野郎が」
真っ赤な顔して怒られても、今の俺は煽られるだけの野獣。逆効果でしかない。もう一度唇を落として、ざらつく舌で丁寧に舐めてやる。猫特有の舌のざらつきは、敏感な乳首に見た目以上に刺激を与えられる。
「く、ぅぅ」
鳥肌立てながら身震いするほど感じてくれてるのを見て、益々高ぶる感情。僅かに歯を立て、授乳のように吸いつけば抑えてた声も我慢を破って溢れ出す。
「く、ぁっ、ぁぁっ」
我慢で苦しそうな喘ぎから甘ったるい色気を帯びた声に変わってきて、どれだけ感じてくれてるのかが丸わかりだ。ちゅうっと引っ張るように強く吸えば、たまらずしがみついてきて……。
「ふ、んぅっ……!」
足に力入れてんのが精一杯で、今にもイきそうな余裕のないシノンが、俺の内側を掻き乱す。
Sっ気は俺にはない筈……なんだけどな。
「もうイきそ?」
「……き、いてんじゃねぇ……っ」
それでも口の悪さは変わらないんだから相当なもんだ。まあ、そこがシノンの良いとこでもあんだけどな。その口を口付けで塞ぎながら手で刺激を与えてやれば、もうイく寸前だったのか、そう掛からないうちにビクリと揺れて。
「ッハ、ぁ」
離した口から深く息が漏れる。
まだしっかり身に着けたままのズボンの下。今頃息と共に吐き出した白濁液で濡れてんだろうな。早く露わにしたくて、うずうずする。
「な、ちょっと、いいか?」
「んだよ……」
イった直後、目を背けながら返事をする震えるシノンの手を取って数歩先まで引っ張って、最も近くにあった木に手を当てさせる。その後ろに回り込み体を覆うと、俺の意図を理解したのか敢えてこちらを見ない。シノンとしては顔が見えない方が恥ずかしくなくていいんだろう。
「そこで体支えてて、な?」
ズボンに手を掛け、下肢を徐々に露わにしていく。時折それだけのことでピクリと動く。
さっき放たれた精液が、ズラした衣服に糸引いて滴り落ちる様がいやらしい。ヌルッと内股を伝うのもまた絶景だ。輪郭をなぞるように雄を扱けば、声は抑えているが直ぐ様甘い息が漏れる。
下半身を堪能するように、濡れた内股を上下し、次いで尻のラインに指を這わせる。小刻みに揺れる肌に一層掻き立てられ、たまらずキレイに閉じた蕾へと指を進ませた。一本目の第一関節、第二関節と、徐々に内側に埋め込んで行けば収縮を繰り返して。それが欲しがってるようにしか見えなくて間隔なく二本目、三本目と増やしていく。
「っ、ふ、ぅっ、……っん」
背を向けていたって見える耳は真っ赤に染まっていて、木になった甘い実のようでついペロリと舌が伸びる。
「ひっ!」
ビクンっ! と俺の体まで跳ねる程に震えて気付く。耳もすげー弱かったんだよな。
「の、やろ……」
潤んだ瞳で尚も睨みをきかせる姿はたまらなく俺を興奮させ、瞬時に理性が揺らぎ我慢がきかなくなる。
「~っあー、無理、な……もう入れさせて……?」
熱く猛った下半身を密着させれば、膨らみが尻の割れ目に嵌る。
────ずっと妄想してたんだ。期待膨らませて攻め立てた矢先に砕けたあの日以来、触れた感覚生々しい妄想の中で、何度も、何度も。シノンの内側って、どんなだろ、凄く気持ちイイんだろうな……って。
ダメだ。俺もうしっかり変態じゃん。
「っは……んなに、しやがって」
ギンギンに高ぶったのを見て振り向き様鼻で笑うシノンに、更に硬くなる素直な俺。衣服という仕切から解き放てば、ぶるんと揺れ存在を主張する。
唾液を垂らし、自身に塗り込み。指で入り口を広げ先端を押し当てる。
「悪い、ごめん、な?」
自身の先走りと唾液によるヌメリで先端を押し込めば、熱い熱い肉壁に囲い込まれて、それだけでいきなり絶頂を迎えそうになる。
「……っ!」
夢にまで見たシノンの中を奥まで味わいたくて、小刻みに少しづつ押し入るが、想像以上の締め付けでなかなか奥まで進めない。
「ちょっと、力抜いて……」
「っぐ……ぅ、ぁあ!」
締め付けてることが恥ずかしい……というよりはきっとこの行為自体が恥ずかしいんだろう。目を伏せ羞恥に耐えながらも、力を抜こうと呼吸を整える姿が愛しい。
ヤバい。思った以上に、ヤバい。
気持ちいい。いや、何だ……嬉しすぎる。これって、好かれてるって思ってもいいのかな?
「んぅう……ぁっ、っっ」
「クッ……っシノン……」
今にも砕けそうに震える足腰で、顔に熱をたぎらせて、それでも喘ぎを我慢して、俺を受け入れてくれてる……。そんな愛おしいシノンに、もっと感じて欲しくて、力の抜けたタイミングでグッと深く奥まで押し入れる。蠢く肉壁に自身の全てが覆われ、快感に身震いした。奥をトントン突いてやれば、俺の動きに合わせてビクリビクリと腰が跳ねる。
ズルりと入り口の方まで引き抜けば、ブルブル震えながら甘い声が漏れ聞こえる。只でさえ熱い肉壁が摩擦のせいか更に熱さを増して、溶けてしまいそうだ。
「くぅああっ、ぁっ!」
引いた自身を押し込んで。イイとこ探して抜き差しを繰り返せばシノンが一層善がる声を上げる箇所を見つけて。イきそうなのを抑えて重点的にそこを突けば、たまらず鳴いてくれる。
「っぃ、っ! ぁ、ぅあっ、あっ」
猫のように木に爪立てて、バリバリと音が発つ。
「ぅあぁっ、ぁっ、ァァ、んっ!」
ここまでくれば、もう声も抑えられず、甘い声を何度も聞かせてくれる。締め付けも断続的に続いて、シノンも限界まで感じてくれたかな……? そう思った瞬間。
「はっ、あっ、ーっぁ、イ、ライっ……!」
喘ぎを放つシノンの口から、自分の名前が聞こえて……ドクンと大きく胸打った。それは、反則だって。
「〜っシノン……っ!」
強く腰を掴んで思い切り最奥部まで押し込んで。ビリビリと伝わる刺激に身を委ねてシノンの内側に脈打ちながら己の欲の塊を注いだ。
「ひ、っ あ……っっ!!」
ぶるっと震えてシノンも自身から白濁を放つ。俺の吐精に合わせて数度震えた後、力んでた体から力が抜けて、木を支えとしていた手がズルズルと滑る。
「っは……はぁ、はぁ」
ずるりと抜き去れば収まりきらなかった液が尻から溢れてきて、その様だけでもう一度熱が上昇しそうだ。
が、漸く刺激が止み深く呼吸をするシノンから、ふう、と大きく一息聞こえたと思えば舌打ちと共に。
「中、出しやがって……めんどくせぇな……」
「へ? あ……」
聞こえてきたのは早速文句。え?開口一番それ?
余韻に浸る間すらなく。調子乗りすぎだと釘を指された気がして、再度上がりかけた一気に熱が引いていく。
「あ、わ、悪い! ほら! あんまりにも可愛いから舞い上がっちゃってさ!」
気付くといつも通りシノンのご機嫌を伺う自分がいて、あまりのへたれ具合に苦笑するしかない。そんな自分を見ずにシノンはテキパキと身なりも呼吸も整えて、僅かに上気した頬以外は着々と元通りになる。
服の下……更にその内側が乱れていようとは誰も思うまい。
服のしわをパンっと叩いてまるで何事もなかったように背を向けて歩いて行くシノンに、思い上がってた気持ちがぐらぐら揺れて不安になってきた。
「嫌、だった?」
つい聞いてしまった言葉の返事が怖くなって、出来れば聞かなかったことにして欲しいと思ってしまう。
「さぁな」
けれど返って来た言葉は僅かにご機嫌……だったのは俺の気のせい?
「さぁなって……」
認めるでも拒否するでもないどっちつかずな含みのある言い方に、俺はまたモヤモヤしてしまうのだった……────
──── 結局両想いだったのかどうかも定かではない。嫌われたわけでは、ないんだろうけど。
そして俺は今日も赤い赤いポニーテールに目を奪われているわけで。
「あーーっ! ……はぁ」
相変わらずの溜め息も今度は申し訳なさではなくシノンに好かれてるのか嫌われてるのか、その狭間でさ迷う気持ち故。
……俺はいつから乙女になったんだよ。
そんなことを考えながら目で追っているとふと遠目でシノンと視線が重なる。目が合っただけで息が詰まる……ってだから何で俺が乙女みたいな反応なんだよ。
合わせた視線を気まずく泳がせるとシノンの眉間の皺が深くなる。再びどぎまぎしながら視線を交えると、遠目で見える口の動きが何かを語る。視線を集中させるとそこは声なくとも、確かに言葉を紡いでいで。それが……
『抱きたいなら、かかってこい』
って、見えて。驚いて目を見開くと挑発的に鼻で偉そうに笑っていて。
「~っ!!?」
なぁ。なぁ。これって、期待してもいいんだよね?
期待に弾む胸。わかりやすく、草むらを元気よく叩き付ける自分の尻尾の合図で、俺は獲物を捕らえる猫の動きでその場を飛び出すのだった────。
2010.4.12