「ほら」
ベッドの上に座り毛布にくるまりながら肌寒さを凌ぐセネリオに、マグカップが手渡される。
「あ、ありがとうございます」
そのマグカップの上には、カップの中身が発しているであろう、白くて温かな湯気が発つ。湯気から漂うのは甘く味付けされたミルクの香り。中身はどうやらホットミルクらしい。
セネリオは嬉しそうにマグカップを受け取るが、カップの熱と湯気に戸惑った。
ハールさんが僕に作ってくれた。そう思うと嬉しくて早く飲みたい気持ちに駆られるが……セネリオは猫舌なのだ。いきなり口を付ければ痛い目を見るのはわかりきっている。でも、できることなら今すぐ飲みたい。
「寒いなら飲め」
軽くそう促すハールの顔とマグカップの中身を交互に見ながら。セネリオは悩んだ末に飲むことを決意する。ゆっくりゆっくり、少しずつ。カップに付けた唇に、急に触れることがないように。
ゆっくりカップを傾けた後、ミルクに口を付け驚く。
「あれ……」
熱さに驚いたのではない。口に含んだホットミルクは、セネリオの口に合う丁度よい温度で。
「熱くない……」
不思議そうにハールを見るセネリオに、欠伸をしながら相変わらずのめんどくさそうな態度で。
「いつも熱いもんに口付けんの遅ぇからな。お前用に作ってある」
「……!」
あんまり興味がなさそうに振る舞うハールさんが。態度と裏腹に、僕のことを、しかもそんな細かいところまで見てくれていたなんて。知ってくれていたなんて。ほんの些細なことだが、セネリオにとってそれはとても嬉しいことで。自然と頬が赤くなる。
手の中の自分のためだけのホットミルクが。嬉しくて嬉しくて無言で照れるセネリオにハールは少し笑い混じりに言葉を投げかけた。
「何だ、もう飲まねえのか?」
「いえっ、飲みます!」
「今度は冷めちまうぞ」
「……知ってたんですね。僕が、猫舌だって」
そんなこと言ったことないのに、というニュアンスで。ちみちみとマグカップに口を付けミルクの味と丁度良い温度を満喫しながら照れくさそうに言う。
「あー……何となくだよ」
ベッドの、僕の横に腰掛けダルそうに返事をするハールが自分と同じように照れているように見えて。セネリオは益々嬉しくなる。
「冷める前に早く飲んじまえよ」
何事もなく終わるはずだったのに。頬を染め嬉しそうに喜ぶ姿に、ハールは体がむずがゆくなって。
「あのっ!」
「なんだ?」
髪を掻きながら振り向くと、セネリオは期待に爛々と目を輝かせていて。
「また、作って、くれますか……?」
「気が向いたらな」
そう言われくしゃくしゃと頭を撫でられたセネリオは、今まで以上に嬉しそうに。幸せそうににっこり笑った。
2008.9.5