広く逞しく、無駄のないクラトスの背中に。後ろからそっと、すり寄るように触れ、ロイドは抱きついた。
「あんた……何か、懐かしい感じがすんだよな」
「ふ……そうか」
懐かしそうに話すロイドに、クラトスもまた懐かしそうに目を細めた。背中に感じるロイドに、口元が微笑む。
「父さんに、似てるのかも……」
クラトスの体温を感じながら、昔を思い出すかのように。
目を閉じふと呟くロイドのその一言に。クラトスは驚き、細めていた目を見開いた。
「ロイド、父親のことを覚えているのか?!」
言葉を発したと同時に、軽く抱き付いていたロイドを振り払い向き合う姿勢になる。
「な、何でそんな驚くんだよ?!」
そんなクラトスの反応に驚き、戸惑うロイド。が、思い付いたように話し出す。
「……まさか、あんたが俺の父さん……とか?」
「?!」
疑うようなロイドの視線に、クラトスはハッとする。問い詰めるように深刻な顔で迫っていたが、そんな自分を押し潜めて、いつもの様に冷静に対応した。
「……馬鹿を言うな」
正直に話せない自分に、クラトスは少し心が痛んだ。
「……はは、だよなぁ。でも、あんたみたいな奴が父さんだったら……良かったな」
苦笑して、しかしどこか切なそうに語るロイド。頼りになる、いつも傍にいてくれる存在。自分にはいない父への憧れを、クラトスに重ね合わせた。
「なーんて、そんなこと言ったら親父に悪いよな!」
だが次の瞬間には胸の内を知られまいと。明るく、何事もなかったように話すロイドに。今すぐにでも、謝って、抱き締めて……父親の温もりを与えたい。そんな気持ちを、クラトスはぐっと堪えた。
「……私も、お前のような息子がいたら、な……」
「ん?今何か言ったか?」
ロイドと同じように切なげに、ぼそりと呟いた言葉は、ロイドの耳には届かなかったらしい。
「聞き流せ。戯言だ」
「……そっか」
再び背を向けたクラトスに、先程と同じように抱き付くロイド。無言のまま、互いの高鳴る鼓動だけが響き合う。
────ロイドは知っている。ノイシュと懐かしげに触れ合うクラトスを。母さんの墓の前で微笑むクラトスを。
でも、何も言わない。クラトスが言わない限りは、知るべきことではないのだ。
幸い、クラトスは気付いていない。だから、いつかあんたが打ち明けてくれるその日まで。知らないふりして過ごしていくさ。
「クラトス」
「……何だ」
「今だけ、俺の父さんの代わりになってくんないかな?」
「……いいだろう。少しの間だけなら、な」
「……ありがとう」
憎いと思っている父親が本当にあんただったら。俺は今のようにあんたを「父さん」と呼べないかもしれない。傷付けるかもしれない。
でもいつか、いつか父親として、あんたが俺を抱き締めてくれる日が来ることを。本当は、ずっと望んでいるんだ……。
2008.8.25